ブックタイトルマツダ技報 2012 No.30

ページ
161/264

このページは マツダ技報 2012 No.30 の電子ブックに掲載されている161ページの概要です。
10秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

マツダ技報 2012 No.30

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

マツダ技報 2012 No.30

マツダ技報No.30(2012)などの拘束装置の設計にもCAE技術を適用することにより車両全体で世界トップレベルの安全性能を実現している。本稿では,マツダの衝突安全性を支えている最新のCAE技術について報告する。Fig.1 Defining Sustainable Zoom-Zoom2.衝突性能開発の概要自動車の衝突現象は,Fig.2に示すように車体系と内装系の2つに大別できる。自動車の持つ運動エネルギは車体の変形により吸収され,この際に車体の減速度や各部の変形が内装部品を介して,乗員に伝わることで乗員傷害値を発生させる。乗員を保護するには,意図した車体の変形により,乗員の挙動をコントロールし,最終的には,乗員へのダメージを最小限に抑えることが重要である。このため設計段階でCAEをくり返し,車体の構造や内装部品,拘束装置の仕様を緻密に設計している。計算の時間きざみ(タイムステップ)の短縮を招き,計算時間の増大に直結する。この問題に関しては,社内のスーパーコンピュータを継続的に増強し,計算処理能力を向上させることにより解決している。ちなみに,マツダが衝突CAEを開始した1990年代初頭ではメッシュサイズが約100mmでモデルの総要素数が数万要素程度だったのに対し,現在ではメッシュサイズは3~7mmまで詳細化し,総要素数も300~400万要素まで大規模化している(Fig.3)。また,近年軽量化の要求から,車体を構成する鋼板材料も多様化している。成形性に優れた低炭素鋼から,高強度な高張力鋼板まで,部位により適切に使い分けられている。これら鋼板の材料特性を正しくモデルに反映させることが重要である。そして,衝突現象で特有となる,過大な入力による溶接点や部材の破断リスクを高精度に予測するモデル化技術を組み合わせることで,軽量でありながら高強度な車体の設計を実現している。Fig.3 Improvement of CAE Model4.乗員傷害値評価技術Fig.2 Kinematics Model of Front Impact3.車体解析の高精度化車体の設計においては,衝突過程で車体の各部が時々刻々どのように潰れ,乗員にいかに減速度や力を伝達するのかをCAEで正しく予測することが必要である。マツダでは非線形解析ソフトLS-DYNA(LSTC-Livermore SoftwareTechnology Corp.,米国)による大規模有限要素モデルを用いて車両開発を行っている。CAEの高精度な予測を実現するポイントは,モデルの精密な作りこみである。車体各部の変形形態(曲げ変形,ねじり変形)や潰れ量をモデル上で再現するためには,詳細な有限要素(以下,メッシュと呼ぶ)を用いて,潰れの起点となるビード・座面などの形状の不連続や,部材の断面変形を正確に再現することが重要である。メッシュサイズに関しては,小さくするほど部品の形状再現性が向上する反面,要素数の増大と前章で述べた高精度な車体解析モデルをベースに,乗員傷害値の予測を可能にした技術を紹介する。4.1乗員ダミーモデル衝突テストでは,各種体型や性別に応じたダミーを用いて,衝突過程での乗員の挙動と,乗員の各部に発生する入力や加速度を計測し,乗員傷害値を評価している。乗員傷害値をCAEで精度よく予測するためには,このダミーのシミュレーションモデルが必要不可欠であり,マツダは,LS-DYNAの高精度ダミーモデルを用いている(Fig.4)。このダミーモデルでは,内部の構造や各ジョイント部の特性まで詳細かつ正確に再現されており,高精度な内装部品や拘束装置モデルと組み合わせ,更に前述の車両モデルに組み込むことにより衝突過程でのダミーの挙動ならびに乗員傷害値を定量的に予測し,これを低減するために最適な車体および内装の構造を開発している。―152―