ブックタイトルマツダ技報　2012 No.30

概要

マツダ技報　2012 No.30

No.30(2012)マツダ技報論文・解説34新世代4WDシステムの紹介Introduction of New-Generation 4WD System八木康*1三戸英治*2石田一之*3Yasushi YagiEiji MitoKazuyuki Ishida松室義隆*4沢崎朝生*5Yoshitaka MatsumuroTomoo Sawazaki要約新世代4WDシステム開発では,他のSKYACTIV TECHNOLOGYと同様のアプローチで,4WDシステムの理想である「タイヤの駆動力を最大に活用できる駆動力マネジメント」を追求した。4WD制御面では,刻々と変わる路面状態をリアルタイムで把握し,ドライバが車輪のスリップを感じる前に前後輪の駆動力配分を高精度で制御する新制御システムを構築した。また,ユニット,コンポーネントハード面では,必要とされる後輪駆動力を徹底的に研究,設計・製造の考え方も全面的に見直し,従来システム比43%の軽量化と,25%のトルク伝達効率改善を実現した。これらにより,CX-5では優れた4WD走破性能と低燃費など高い環境性能の実現に貢献できた。SummaryDuring the development of the next generation 4WD system, like the same approach of otherSKYACTIV TECHNOLOGY, we pursued the ideal 4WD system with "precise torque managementthat makes best use of wheel torque". The new control system detects road surface conditions inreal time and distributes torque to front and rear wheel before a driver can feel slip of wheels. Byanalyzing required rear torque precisely and improving the concept of design and productionprocess, we also achieved 43% weight reduction of the hardware system and 25% torque transferefficiency compared to the current system. These enabled superior drivability and highenvironmental performance of CX-5.1.はじめにCX-5をはじめとする新商品群に搭載する新世代の4WDシステムを開発するに当たり,4WDシステムの理想を再定義した。それは,前後タイヤの駆動力を最大限に活用することである。その理想を実現するためには,前輪/後輪への駆動力配分を自在にコントロールし,必要な時に必要十分な駆動力を後輪に伝える駆動力マネジメントが鍵となる。それにより,求められる4WD走破性を向上させ,燃費など環境性能を最大化させることが可能となり,ユニット,コンポーネントの小型・軽量・高効率化にも貢献できる。本稿では,駆動力マネジメントと,4WDシステムを構成する4WD制御デバイスやユニット,コンポーネントについて紹介する。2.駆動力マネジメント2.1駆動力マネジメントコンセプトFig.1は,市場の舗装路走行における前後加速度頻度を示している。路面μの大きな舗装路において,その低加速度域に頻度は集中している。路面μの小さな雪路等では,低加速度域集中が更に顕著になると推測する。これらを踏まえ,市場走行における後輪駆動力が必要なシーンをFig.2に示す。滑りやすい路面で急加速する等のエンジン駆動力が前輪グリップ容量を超えるシーン(Fig.2斜線部)では,エンジン駆動力を分担するため後輪への駆動力伝達が必要である。もし,実際に前輪グリップ容量を超えてしまうと4WD走破性を喪失してしまう。一方で,前輪グリップ容量に余裕のあるシーンでは,後輪駆動力をゼロ*1~5ドライブトレイン開発部Drivetrain Development Dept.―175―