ブックタイトルマツダ技報 2012 No.30

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マツダ技報 2012 No.30

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概要

マツダ技報 2012 No.30

マツダ技報No.30(2012)が市販車にも搭載され始めた。運転者の脇見を検出するシステム,居眠り運転や疲労を検知するシステム,ステレオカメラで前方障害物を検出し衝突しないように急ブレーキをかけるシステムなどが市販され,着実に自動車の知能化は進化してきた。しかし,これらのシステムは,限定された周辺環境条件において作動するシステムであり,通常のあらゆる運転場面をシームレスに見守るシステムにはなっていない。運転場面を限定しない通常の運転行動への支援を対象とした研究も行われている(1)が,まだ実証データが乏しく,基礎研究の蓄積が期待される。また,人間と機械が協調した未来システムの実現のためには,人間の可塑性(経験が蓄積され同じ状態に戻らない性質)や非定常的な時間軸変動を考慮した新しいデザイン方法論の適用が必要である(2)といわれている。そこで,基礎研究データの蓄積と方法論検討を目的とし,未知の走行場を走行した場合でも学習し判断することによりリアルタイムに走行場を推定し,推定した走行場に対応した制御を進化学習させる創発型制御システムを考案した。また,試作した車載可能な創発型制御システムを,ハイブリッド車両の低燃費化とバッテリ寿命の長寿命化に適用し,効果の検証を行った。2.走行場推定技術の検討2.1走行場推定の考え方従来の自動車において,周辺車両との関係,車両挙動,運転者状態は独立に計測され,個別の支援システムが搭載されてきた。従って,それらの相互作用がある場合の支援ができず,あらゆる走行場面への適用拡大が難しかった。そこで今回,走行場は,①周辺環境(道路形状,勾配,交通標識・信号,他車両,歩行者など),②車両挙動(自車両速度,加速度,ステアリング操舵量,ペダル操作量など),③運転者状態(覚醒状態,疲労状態,脇見,リスク感など),といった3種類の要因から推定されるものとする。従って,推定される走行場は,例えば高速道路・交差点といった地理的条件のみで決定されるものではなく,同一運転者が同じ道路を走行したとしても走行ごとに異なる。人間は機械システムのように同じ条件で入力を与えたときに,同じ出力が返ってくるのではなく,過去の経験の積み重ねが運転行動に影響を与え,同じ道路環境で走行しても,同じ運転行動をとることはない。そういった人間の可塑的な性質を考慮して走行場推定システムの基本フレームを考えることにした。つまり,すべての走行場が既知であり整理分類されたデータテーブルとして準備できるものではなく,走行するごとに,未知の走行場であるか,既知の走行場であるか判定し,未知の走行場ならば新たな走行場であると学習し記憶していくものとした。input layerCompression2nd layerinterlayer4th layerDecompressionoutput layerInput data……Input dataFig.1 Identity Mapping Model2.2走行場推定アルゴリズムFeature extraction周辺環境,車両挙動,運転者状態を入力として走行場の基本因子を抽出するアルゴリズムを考える。入力は,必ずしも線形データではないので,非線形データの次元圧縮手法として,ニューラルネットワークの一種である恒等写像モデル(3)を用いる。恒等写像モデルの構成をFig.1に示す。恒等写像モデルでは,入力層のデータを中間層で圧縮し,出力層で復元する。入力層と出力層の値が等しくなるように学習を行うことにより,中間層には入力層に含まれる必要な情報がコンパクトに表現される。第2層および中間層のニューラルネット数は,出力層で復元したときの入力層との誤差に基づき決定される。中間層のパラメータ値から走行場を判定する。走行場を判別するためのパラメータ値の閾値は固定値ではなく,走行場データの蓄積に伴い変化する変数とする。3.創発型制御システムの検討3.1創発型制御の考え方(1)創発型制御の必要性創発とは,部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が,全体として現れることである。また,ここでいう制御は,エンジンやモータ等を制御することだけでなく,運転者への情報提示の種類やタイミングを決定することを含む。自動車が,周辺環境,車両挙動および運転者状態に基づき,最適な制御を決定しても,人間が生来保有する可塑性のために,運転者は決定された制御に対して一定の操作を繰り返すことはない。自動車は,変化した運転者に対し更に学習し,制御を変化させていくが,運転者は変化した制御も経験として取り込んで,新たな適応を求める。このように,自動車が運転者に適応すると同時に,運転者も自動車に適応する双方向性の適応系においては,系全体として現れる性質を制御する必要があると考えられる。運転者が適応を繰り返す理由として,①多様な走行場への運転経験や知識の蓄積により効率的な運転行動へ変化したがる②運転中の制御目標が事故防止などの生命を維持する目標から,楽しく運転するなどの自己実現の目標まで多―210―