ブックタイトルマツダ技報 2013 No.31

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マツダ技報 2013 No.31

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概要

マツダ技報 2013 No.31

マツダ技報No.31(2013)ンパとしての開発目標は,従来の部品コストと同等以下で,20%の軽量化を達成することとした。20%軽量化のためには,現状の平均板厚2.5mmを20%削減して2.0mmにする必要がある。薄肉化によって低下した剛性を補うため,材料としての開発目標は,曲げ弾性率を従来材に対して50%向上の2300MPaとした。剛性は板厚の3乗に比例することから50%の曲げ弾性率向上では剛性は24%不足するが,不足分については,構造と板厚配分の最適化によって達成することとした。また,薄肉化によって成形性が悪化することを防ぐため,成形時の樹脂の流れやすさの指標であるメルトフローレート(以下MFR)は25%上げ,40g/10minとすることを目標とした。従来のバンパ材は,ベースとなるポリプロピレン(以下PP)にゴム,そして充填材としてタルクを配合した,いわゆる3元系の材料である。剛性を向上させるにはタルクの配合量を増やし,PPの分子量を上げればよい。しかし,それでは成形性や耐衝撃性が低下してしまう。これに対して開発材は,高分子量のPPと,低分子量の2種類のPPにそれぞれ役割を分担させた。高分子量PPで剛性を向上し,低下した成形性を低分子量PPの添加で補って,剛性と成形性を両立した。また,開発材は剛性向上のために増加したタルクの影響による耐衝撃性の低下を補うために従来中程度であったゴムの分子量を上げることにより耐衝撃性を向上させた。しかし,塗装の密着性を確保するには,成形品表面に出るゴムの面積が外表面に存在する比率(以下表層ゴム分率)を一定以上に確保する必要があるが,高分子量のゴムは球状になろうとする性質が強く,表層ゴム分率を確保できない。そこで表層にゴムが出るように,球状になりにくい分子量が低いゴムを別に添加した。従来,中程度の分子量を持つゴムを使用していたものを,高分子量のゴムで耐衝撃性を向上させ,低下する塗装密着性を,低分子量のゴムで補うことで,耐衝撃性と塗装性を両立した。射出成形用材料は特性が異なるものを混ぜた場合に,層分離を起こし,層間剥離することがあり,安易な多成分化は危険である。開発材料にあっても各組成の分子量と配合量を調整しながらテストピースでの確認はもちろん,実際のバンパを成形して性能確認を繰り返し,最適化を行い目標を達成した。(3)バンパの形状薄肉にすると冷却しやすい反面,早く充填してやらないと樹脂の粘度が上がり,流れが途中で止まってしまう。射出成形では,樹脂の注入口であるゲートの位置や,樹脂の流れの乱れなどをコンピュータによるシミュレーションで予測し,事前に形状等の最適化を行う。薄肉にすると流れる距離が短くなりゲートのレイアウトが困難となる。材料物性だけで解決できないものはゲートの位置や形状などに変更を繰り返し,最適な形状を探り出した。また,キャラクタライン(折れ)のある形状とすることで剛性が保たれる。(4)薄肉化,軽量化,省エネルギー化実際に開発材を用いて板厚2.0mmで成形したバンパの性能を評価した結果,剛性,耐衝撃性といった必要機能を全て満足することを確認し,目標とした20%の軽量化を達成することができた。また,部品をより薄肉で製造できるため,材料使用量の大幅な削減が可能となった。製造工程においては,薄肉化により成形時の冷却時間を短縮したことに加え,CAE解析技術の活用により樹脂材料の流動性を最適化することで,従来は約60秒かかっていたバンパの成形時間を,半分の30秒に縮めた。これにより,製造時の消費エネルギーを大幅に削減することができた。(5)低コスト化日本国内で製造されるPPは,インラインコンパウンドといわれ,樹脂の重合プラントでペレットといわれる状態に造粒される。この方法は,別に造粒工程を持たないためコスト的に有利である。一方重合プラントは巨大で,基材となるPP以外の成分を多種,大量に添加するとプラント自体の生産性が低下し,経済的に成立しない。本開発では材料メーカとの密接な共同開発を通じて,材料の5成分系を経済的に生産可能な組成バランスを探し出した。射出成形は,樹脂を溶かし(可塑化),型内に充填し(射出),固める(冷却)という本質的な工程と,型を開いて成形品を取り出す,といった付随的な工程に分類される。このうち可塑化時間と射出時間は材料の量が20%減らせたことにより短縮した。薄肉化による時間短縮の効果が更に大きいのは冷却工程で,冷却時間は板厚の2乗に比例し,20%の板厚削減の効果で46%削減できる計算となる。今回,実成形においても冷却時間はほぼ半減できた。更に付随的な工程も見直すことで,バンパ1本あたりの成形サイクルを60secから30secに削減した。また,材料のコストアップなく材料使用量も20%削減したことで,バンパの製造コストも削減でき,低コスト化につながった。(6)新型車への適用本開発材をCX-5のバンパに採用した(Fig. 3)。前後バンパで目標の2.0mm板厚を実現し,重量も従来から20%低減してフロントとリヤを合わせて7.5kgから6.0kgへ重量を低減した。CX-5以降の新型車に順次展開している。―188―