ブックタイトルマツダ技報 2013 No.31

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マツダ技報 2013 No.31

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マツダ技報 2013 No.31

No.31(2013)マツダ技報変化で表現する0次元燃焼シミュレーション(0Dモデル)を用いた。また,ピストンなど細かい形状を決定する詳細設計段階では3次元シミュレーション(3Dモデル)を用いた(Fig. 1)。更にそれらの効率的活用のため解析実行の自動化システム(3)を開発し,机上での検討数を大幅に増やした。1 DimentionalCycle Simulation0 DimentionalCombustionSimulation3 DimentionalSimulation(CFD)ConceptualDesignDetail DesignExperiment(Units・Vehicle)DesignSpecificationsFig. 1 V-process of Engine DevelopmentExperiment(Parts)例えばSKYACTIV-Dでは,高価なNOx後処理装置なしにEuro6の自動車排ガス(EM)規制をクリアし,同時に高トルク,低燃費を実現している。こうした性能はエンジン回転数,負荷に応じてターボチャージャやEGR(ExhaustGas Recirculation)バルブなどの切り替えを細かく行い,燃料の噴射パターンを大幅に変えて,空気量,不活性ガス量,燃料量を常に最適にすることで実現した。SKYACTIV-Dのように複雑なエンジンで性能を出し切るためには,開発初期から各種性能を満足させる燃焼を考えながら,ターボチャージャの選定や吸排気管,燃焼室の諸元設定を行うことが極めて重要である。この膨大な数の検討を実機エンジンの試作だけに頼ることは困難であるため,構想設計段階でのMBDは重要である。構想設計段階のあとは詳細設計段階になる。この場合もMBDが高性能化の鍵を握る。例えばSKYACTIV-Gは,従来にない高圧縮比を採用したガソリン直噴エンジン(DI:Direct Injection)であり,高出力・低燃費を生み出すポテンシャルを持つ。しかし,それだけに開発が難しい。例えば燃料を筒内に噴射する際,少しでも筒内流動と燃料噴射パターン,燃焼室形状の組み合わせが適切でないと,燃焼が悪化して性能が大幅に低下する。つまり,高性能を生み出すためには,詳細形状の最適化検討が必須であり,机上で多くの仮想実験を行う必要がある。このように,SKYACTIVエンジンの開発においては,構想設計段階でも詳細設計段階でも,MBDが重要なポイントであった。机上での検討を充実させるには実用的な予測精度が必要不可欠であるが,当初は十分なレベルになかった。そのため,最初に予測技術の精度を大幅に高めるための開発を行った。並行して,多くの検討を行うために解析効率を向上させる開発も行った。こうして確立した解析技術と実験を組み合わせることでエンジンの内部で起きている現象を解明し,その知見を活用して諸元,形状を決めてきた。これ以降,各段階について詳細に述べる。3.構想設計段階でのモデルの活用エンジンの出力・燃費・EMは,筒内の温度,圧力,不活性ガス量などに起因する着火性や燃焼速度と,吸入する空気量で多くの部分が決まる。これらは,エンジンの吸排気管諸元,圧縮比,バルブタイミングなどに大きく影響を受ける。こうした諸元を構想設計段階に机上で検討するために,0Dもしくは1Dモデルが一般的によく活用される。3Dモデルに比べて計算時間が短く多くの計算が可能なことから,大きな諸元決定には欠かせないモデルである。従来からこうした手法は活用されていたが,SKYACTIVエンジンの開発においては,高精度な検討が必要なため,従来モデルをそのまま使うことはできなかった。例えばディーゼル燃焼の場合,燃料の着火や燃焼速度は,燃焼室内の温度,圧力,燃料の噴霧形態や筒内流動により大きく左右される。こうした燃焼の検討を行う場合,廣安らが開発したHIDECS (4)という燃焼を計算する0Dモデルを活用することができる。0D計算でありながら,噴霧を疑似的に3Dで解くことができるため,燃焼計算には有効である。SKYACTIV-Dでは,出力・燃費・EMや音の両立を図るため,燃料を1サイクル中に一度に噴く一括噴射に加え,パイロット噴射,遠隔パイロット噴射,アフタ噴射を組み合わせて使う(Fig. 2)。1Pre & After Inj.Time2Pre & After Inj.TimeLoad NmSingle InjectionTimeEngine Speed rpm 1Pre Injection2Pre InjectionTimeTimeFig. 2 Injection Concept of SKYACTIV-DしかしHIDECSは一括噴射を対象に作られているため,こうした複雑な燃料噴射パターンに適用するには精度が十分ではなかった。例えばパイロット噴射では,噴射した燃料が圧縮されて化学反応が急速に進み,実際よりも急激な圧力上昇になるという予測精度の問題が起きていた(Fig. 5(a))。こうした予測精度悪化は,燃焼という現象が複雑な化学反応の組み合わせであることに起因する。例えばFig. 3に,ある温度,圧力における燃料の着火遅れ時間を示すτ-mapと呼ばれる燃焼特性を示す。筒内温度圧力履歴の一括噴射のラインとパイロット噴射が通るラインを比べると,後者では温度が上昇すると着火が遅れる,という負の温度依存領域を通る。こうした現象は従来のHIDECSに組み込まれた簡易な化学式を使った予測では再現できなかった。そこで,燃焼過程を細かく再現する化学反応速度論に基づく化学反応解析(以下,詳細化学反応モデル)を使った着火遅れ時間予測技術を新―55―