ブックタイトルマツダ技報 2013 No.31
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マツダ技報 2013 No.31
No.31(2013)マツダ技報影響は大きい。例えばSKYACTIV-Gは燃焼室内に直接燃料を噴射するDIエンジンであり,従来にない高圧縮比を実現するため,Fig. 8(b)に示す独自のピストン形状を採用している。従来型のポート噴射エンジンでは燃焼室内の混合気分布はほぼ均質になるのに比べ,DIは不均質性が高い。この不均質性はEM悪化につながるほか,火花点火時期における点火プラグ付近の混合気が薄ければ着火性が悪化し,燃焼安定性が極端に悪化するため,設計が極めて難しい。例えばFig. 11(a)は燃料噴射時期と燃焼安定性の関係を示したものであるが,少し燃料噴射時期が変わると極端に燃焼安定性が悪化することがわかる。商品性を確保するために,さまざまな条件においても問題なく運転できるようロバストな燃焼特性にする必要があり,そのためには形状の最適化が必要である。Piston shapeするが,従来の光学撮影では蒸発していない液滴と燃料蒸気を同時に計測することが不可能なため蒸気の挙動が不明で,3Dモデルの精度は大幅に低下する。そのため,広島大学との共同研究で,高温・高圧下において蒸気相と液相を分離して計測する手法の開発から始めた。その結果,高圧容器とLAS法(Laser Absorption Scattering technique:2波長レーザ吸収散乱法)(9)(Fig. 9)という手法により計測が可能になり,常温・常圧から高温・高圧まで各種条件下で噴霧挙動を正確に計測できるようになった。こうした計測が可能になったことから,モデルの精度も大幅に向上できた。例えば,Fig. 10(b)に予測精度改善前と改善後の結果の比較を示す。改善前では液相の挙動は実測と合っているが,蒸気相の挙動が大きく異なる。改善後は液相・蒸気相ともによく一致していることがわかる。Nd:YAG LaserVisible BeamUV BeamInjectorFlat typeCavity typeA/FDistribution of fuel vaporHomogeneousStratified(a)Previous Engine (b)SKYACTIV-GFig. 8 Combustion Chamber of SKYACTIV-G従来の形状検討は3Dモデルの精度不足のために,実験による試行錯誤を行うしかなかった。SKYACTIVエンジンでは,こうした状況をブレークスルーするために,モデルの精度を大幅に向上させ,メカニズムを把握して形状を決めてきた。燃料噴霧解析を事例に説明する。筒内の現象は大変複雑であるため,物理現象を全て理論式で再現することは難しく,乱流モデルに代表される物理モデルを使った簡易化をせざるを得ない。こうした現状の3Dモデルでは,実機計測結果を手本としてパラメータチューニングを行って精度を向上させることが基本である。その際,時々刻々変化する燃焼室内に燃料を噴射する,という複雑さを緩和するため,まず定積の容器でインジェクタの基礎計測を行う。その後噴霧モデルパラメータの同定を行い,インジェクタの特性を精度良く再現する。この場合,一般的には,常温・常圧の定容器にインジェクタをセットして燃料を噴射し,それを高速度カメラで光学撮影を行い,噴霧先端到達距離や噴霧の粒径を計測する。しかし,SKYACTIV-Gでは燃料を吸気行程から圧縮行程までさまざまなタイミングで噴射して燃焼をコントロールするため,例えば圧縮行程での噴射では高温・高圧下での燃料噴射となる。こうした条件の場合,噴射された燃料は早期に蒸発ChamberCCD Camera(a)High pressure chamber (b)Schematic of LAS method420Fig. 9 High Pressure Chamber and LAS MethodΦLΦVΦLΦV2.01.51.00.50.3Liquid0.50.3210Vapor(a)ExperimentLiquidVaporLiquid010203040mmVaporBefore Optimization After Optimization(b)SimulationFig. 10 Liquid and Vapor Phase Equivalence RatioDistribution (Comparison of Experiment and SimulateResult)これらの基礎実験で精度改善を行ったモデルをエンジン性能予測に活かした事例をFig. 11に示す。噴霧レイアウトの異なったTypeAとTypeBというインジェクタでの燃焼安定性の実測値と予測値の比較結果であるが,改善後は実機の結果と解析結果の傾向が良い一致を示し,相対比較が十分に可能なことがわかる。SKYACTIVエンジンの開発においては,こうして精度を大幅に向上させた解析技術を用い,筒内流動・噴霧挙動に大きな影響を及ぼすポート形状,ピストン形状,インジェクタの噴孔レイアウトなどを決めていった。―57―