ブックタイトルマツダ技報 2015 No.32
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マツダ技報 2015 No.32
マツダ技報No.32(2015)られる。前述のフィードバック制御は路面摩擦係数変化による駆動力変化の応答性は確保できたが,アクセルペダル踏み込みに対する応答性が,ベース車両であるデミオEVに対し劣っていた。そこでフィードフォワード制御を導入し,この問題を解決した。アスファルト路面での全開加速のレスポンスを市販車同等になるようにゲインのチューニングを施した。こうすることによりEVの持ち味を損なわず,本制御の利点を付加することができる。5.車両への実装と走行実験開発した制御を実装する実験車両(デミオEV)は,指令トルクに基づいたベクトル制御で永久磁石同期モータの発生トルクをインバータが制御している(5)。駆動モータの電流量から発生トルクを推定し,それぞれの駆動輪のエンコーダから車輪速を検出することができる。加速度センサは搭載されていないため,加速度は車輪速センサから求める。インバータに送信するトルク指令値を生成するロジックに,提案するFig. 8の制御ロジックを置き換えることで機能を実装した。実験車両を用いて,特にその効果を発揮しやすい低摩擦路面で制御効果を検証した。この時,式(23)の分母の車体加速度は簡単化のために本実験に関しては1m/s2で固定としている。実験では,従来のトラクションコントロールシステム(TCS)の制御と,今回提案する駆動力制御を実装し,同じ条件でテストした。そして提案した制御ロジックが従来のTCSに対しどの程度アドバンテージがあるのかを確認した。低摩擦路面性能の確認は北海道の寒冷地試験場で行った(Fig. 9)。試験時の外気温は-7℃であり,融解による路面の水膜はない状態である。Fig. 10は圧雪路での走行結果である。従来のTCSは最初に起きたスリップを検知して,スケジュールされたトルクまでトルクダウンしてスリップを止める。この時の車体の加速度を表しているのがFig. 10の下段であるが,これを見るとトルクダウンに伴い大きな加速度の落ち込みが発生していることが分かる。これに対してスリップ率制御は目標のスリップ率に収束するようにトルクを制御するので,大きなトルクダウンは発生しなかった。Fig. 11はアイスバーンでの走行結果である。TCSとスリップ率制御は一見同じトルクで制御されているが,TCSは大きなスリップ率に高止まりしているのに対してスリップ率制御は速やかに目標スリップ率に収束するという現象を確認できた。スリップ率制御は応答性が改善されており,速やかに目標までトルクダウンするために,確実に線形領域までスリップ率が落ちる。線形領域ではタイヤの横力が残るので,旋回中に安定した走行ができるということも確認できた。また,加速以外の走行シーンとして登坂の試験も行った。Fig. 12は勾配が12%~25%変化する圧雪の勾配路を登った時の結果である。勾配路を登っていくと,フロントタイヤにかかる荷重がだんだん抜けていき,同じ駆動力でもスリップ率が増えてやがて巨視的なスリップが発生する。この時,従来のTCSはスリップを検知し,大きくトルクダウンしてグリップを回復させようとするが,一方で坂道なのでトルクが落ちすぎると坂道で止まってしまうという現象が起こる。提案したスリップ率制御の方も勾配の増加とともに巨視的スリップ領域に突入しようとするが,応答性が改善されているため,目標スリップ率を超えると速やかにかつ精細にトルクダウンが発生できるため,結果として大きくトルクダウンすることなく,止まらずに最後まで登りきることを確認した。Fig. 9 Scene of Cold Region TestFig. 10 Result of Pressed Snow Road Test-232-