ブックタイトルマツダ技報 2016 No.33

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マツダ技報 2016 No.33

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概要

マツダ技報 2016 No.33

No.33(2016)マツダ技報光合成は大きく二つの反応系から成る。一つは太陽光を利用した光化学反応(明反応)で,もう一つはエネルギーを利用して糖を合成するカルビン回路(暗反応)である。光化学反応(明反応)では,水から電子が引き抜かれ,Z機構と呼ばれる複雑な電子伝達経路を経て,太陽光エネルギーが電子伝導体のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)に蓄積される。また,チラコイド膜を隔てた水素イオンの濃度差を駆動力にしてアデノシン三リン酸(ATP)が合成される。カルビン回路(暗反応)ではNADPHとATPを使ってCO2と水から糖を合成する。このように光合成では,光エネルギーは最終的に化学エネルギーとして蓄積される。人工光合成とは文字どおり光合成を人工的に行うことであるが,一般的には,光エネルギーを化学エネルギーに変換する人工的な物質システムと定義できる。人工光合成を広い意味でとらえれば太陽光エネルギーの高エネルギー物質(水素やCO2還元物)への変換であり,光触媒による水素製造のほか,光電極と電解還元,または太陽光発電と電解還元を組み合わせた化学物質製造もその範疇に入る。人工光合成の研究テーマは,光合成メカニズムの理解に始まり,光合成の模倣,高付加価値物質の合成,燃料のような高エネルギー化学物質の生成まで多岐にわたる。本稿では,エネルギー生産関連テーマに絞って解説する。4.2人工光合成の原理(光触媒による水分解)世界初の「人工光合成」は,1972年に科学雑誌“Nature”に発表された“本田-藤島効果”である。酸化チタン(TiO2)の単結晶を陽極に,白金を陰極に配置し,波長400nm以下の紫外線を照射すると,わずかなバイアス電流で水を水素と酸素に分解できることから,水から燃料を得るブレークスルー技術として世界的に注目された。TiO2の伝導体の下端電位がH +/H2の酸化還元電位(標準水素電位SHVで0V)よりも負,TiO2の価電子帯の上端電位が水の酸化電位(1.23V SHE)よりも正のとき,“本田-藤島効果”が発現する(Fig. 2)。TiO2が電解液に接触するとTiO2表面付近のバンドが曲がって空間電荷層が形成される。光照射で電子-正孔対ができると,空間電荷層による電場勾配によって電子はバルク側へ,正孔は表面へと電荷が分離される。伝導体の下端電位と価電子帯の上端電位の差であるバンドギャップエネルギー(Eg)は,アナタース型TiO2では3.2eVとなる。Egに相当する波長の光より短波長の光を当てると,Eg以上のエネルギーが供給され,価電子帯の電子は伝導帯に励起される。価電子帯には正孔が生じて光反応が進む。励起電子は,伝導帯の下端電位が基質の酸化還元電位よりも-に大きい場合,還元反応が起こる。一方,価電子帯に生成した正孔は,基質の酸化還元電位よりも+に大きい場合,電子を奪い取って酸化反応が起こる。oxidation-reduction potential- highelectronic energy+ lowconduction bandforbidden bandH+/H2 0 Vband gap: Eg?G > 0O2/H2O +1.23 Vvalance bandholeelectronFig. 2 Oxidation-Reduction Reaction of Photocatalyst4.3人工光合成技術の開発状況米国エネルギー省「エネルギー・イノベーション・ハブ」プログラムや欧州の第7次技術開発枠組計画(FP7)公募型研究及び日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「人工光合成プロジェクト」といった国家プロジェクトの支援もあり,米国,欧州,日本等では人工光合成の研究開発が加速している。NEDO“人工光合成プロジェクト”は,2021年時点で10%の太陽エネルギー変換効率を目標に掲げている。この変換効率10%は,経産省水素供給価格目標値(40円/Nm3 @2020年)を満たすための実用上の必須条件とされている。日本における人工光合成研究のトップランナーの研究開発状況を以下に述べる。(1)半導体/金属錯体ハイブリッド光電極(株)豊田中央研究所は,2011年9月,太陽光エネルギー(可視光)を利用し,外部アシストなしで水とCO2のみを原料にして有機物(ギ酸)を合成する人工光合成の実証に世界で初めて成功と発表した(6)。太陽エネルギー変換効率は0.04%で,これは一般的な植物であるスイッチグラス(0.2%)の1/5程度である。本システムは,生成酸素による触媒被毒防止用に設けたプロトン交換膜で仕切られたCO2還元光電極とH2O酸化電極を導線でつないだ電気化学セル構造をとっている。CO2還元電極の光触媒にはRh錯体と半導体InPから成るInP/Rh錯体を,H2O酸化電極の光触媒にはTiO2を用いている(7)。2015年には,光吸収層にシリコンゲルマニウム(SiGe-jn)を用い,太陽光変換効率4.6%に達する1チップ人工光合成デバイスを開発した(8)。(2)半導体光電極と金属触媒電極の組み合わせパナソニック(株)は,窒化物半導体(窒化ガリウム:GaN)と金属触媒インジウム(In)を導線でつないだ電気化学セルで,CO2から有機物のギ酸を生成する人工光合成システムを開発した(9),(10)。2014年には,GaNにInを混ぜた半導体と銅(Cu)触媒電極を組み合わせ,太陽エネルギー変換効率0.3%でCO2をメタン等に還元した(11)。(株)東芝もパナソニック(株)と類似した人工光合成システムを2014年11月の国際学会で報告した(12)。e -h +-97-