ブックタイトルマツダ技報 2016 No.33

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マツダ技報 2016 No.33

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概要

マツダ技報 2016 No.33

マツダ技報No.33(2016)が考えられる。①工法による曲げモーメントの低減②製品形状の変更による形状凍結性の向上③方案形状への見込みによる織り込み当初,軟鋼板から高張力鋼板の材料置換に対してはこれまでの経験則をもとに主に②による対策が取られてきたが,高張力化に伴い,①や③による対策を拡大してきた。例えば工法では,主に成形工程を2つに分け,初工程で浅く成形したのち,次工程で正規位置まで成形する方法を用いている(2)。この意図は,(1)寸法精度に対して初めに浅く成形することで,与歪量変化を低減し寸法精度のバラツキを抑制する。また,残りを折り曲げ成形にすることで,壁そりの発生や寸法精度変化を低減させる。(2)成形性に対して割れ懸念箇所などにオーバードローを設置でき,成形余裕を確保しやすくする。また,しわについては二つの工程で成形量のバランスをとりながら発生の低減を図る。(3)生産性に対して成形荷重と材料の流入量を低減することで金型への負荷を下げ,型かじりの発生を防ぐ。また,成形方向と同じ方向でトリム加工が行えるようにすることで,トリム型の負荷軽減と製品端精度の向上を図る。これらをCAEによる検証を進め工法の最適化を行い,実型の製作を行う取り組みを進めてきた。また,見込みについては,CAE解析結果より妥当性の高い見込み情報を導出しシームレスに見込み形状を作成する検証要領を確立した(3)。これは,スプリングバックの原因となる離型前の残留応力を用い,この応力のベクトルを反転しスプリングフォワード情報を算出しこれを見込み量に用いる。また,複数の曲面で構成される工具形状を大域変形技術の適用によりトポロジーを変更することなく,滑らかにかつ見込み量を正確に織り込んだ見込み形状の作成を実現し,寸法精度検証期間の短縮を実現した。しかし,更なる引張強さの高張力鋼板を適用するとなると,スプリングバックの絶対量や材料特性のバラツキがより大きくなることから,対処療法的な①や③の取り組みの延長線上では限界が見えてきた。そこで,今一度②の視点に立ち返り,製品形状が持つ本来の機能に併せて形状凍結性を向上する機能を備えることで,スプリングバックの発生を低減させる点に着目した。3.3形状凍結性向上の取り組み新たな着目点は経験則のみに沿った製品形状変更による検証の繰り返しではなく,離型前の残留応力の分布状態を解析することでスプリングバックの発生要因を特定し,各要因に応じた形状凍結性を向上する形状付与や変更による確認検証を繰り返すことで寸法精度のスパイラルアップを図る点にある。この検証の大まかな流れは以下のとおりである。①最初にスプリングバックの状態を大別し,最も製品形状全体に影響を及ぼしている状態,多くの場合は稜線そりやねじれなどに着目し,応力の分布状態を確認する。②パネルの応力を引張は符号+,圧縮は符号-によりカラーマップを用いて表現し分布状態を確認する。しかし,製品全体の複雑な応力状態のままから,着目した状態との関連性のある個所を即座に見出すのは難しく,大抵の場合は検証領域の絞り込みを行う。③例えば,稜線そりの場合は稜線方向に形状全体を数分割し,各分割領域の応力をゼロにしてスプリングバックの計算を行う。各結果での稜線そりの状態を確認し最も変化が大きい領域を関連性が高いと想定し該当領域内で更に詳細に応力の分布状態を確認する。④ある程度領域が狭められてからの要因応力の特定では,応力の存在有無のみならず,引張応力と圧縮応力の位置関係や大きさによるバランス,成形過程での応力発生の様子などを勘案する。これらの手順により検証を進め,スプリングバックの状態と関連する応力の存在箇所や状態を明らかにし,対策に向けた形状や工法を検討する。この検証要領を適用した部品Bピラーインナーでは,主に稜線そりのスプリングバック量を検証着手前から70.4%低減することができた(Fig. 4)。Before measuresAfter measuresFig.4 Amount of Springbackまた,この検証要領の適用により事前検証期間の短縮も実現することができた。従来は事前検証期間の終末期に見込みによるCAE解析を繰り返し,部品によっては検証期間の延長が必要であったが,形状凍結性向上による寸法精度保証を事前検証期間の前半部分に収束させることで,最終的な補正量を小さくし,補正形状作成工数や検証回数を低減することができた(Fig. 5)。-68-