マツダ技報 2017 No.34
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2.2 法線ベクトルと面の連続感の関係 従来は,部品間の寸法精度の指標として,隙と段差を Surface B Hood (Sheet Metal) Grille-Upper (Plastic) -94- 5 マツダ技報 バンパーなどの樹脂部品によって構成される(Fig. 2)。クレイモデルの塊感を量産車で実現するには,これら材質も質感も異なる部品間における面の連続感が重要である。一方で部品間には分割線が存在し,人間の視覚特性上その変化点には視線が無意識のうちに滞留する。「魂動」デザインの特徴の一つでもあるキャラクターラインを極力排した面によって塊感を実現するには,車両全体の外装面に映り込む風景が滑らかに連続することで分割線に視線を滞留させないことが求められる。これらを具現化するには,光の反射方向を左右する“法線ベクトル”をクルマ全体にわたり滑らかに連続させることで,塊感のある車両を実現できると考えた。 用いてきた。ここでは隙と段差に加えて,部品間の法線ベクトルのズレと映り込みの違和感の関係を明らかにしていく(Fig. 3)。まず,ボンネット・バンパーからなる実寸大カットモデルに蛍光灯を映り込ませ,部品の表面に映る蛍光灯ラインのズレを違和感として認識できるか官能評価を実施した(Fig. 4)。次に,実験計画法により部品間の法線ベクトルや隙・段差といった各因子を動かし,表面の形状をレーザー測定機で取得し,CADデータ上で実験モデルを再現しラインズレの距離を計測した。この時,映り込むラインズレ量と各因子の関係を整理すると式(1)になる。Sは映り込むラインズレ量(mm),(V1-V2)/Lは法線ベクトルの変化(°),A~Dは係数を表す。上記で得られたデータを基に各因子を説明変数,映り込むラインズレ量を目的変数として,重回帰分析によって寄与度を求めた。その結果,従来の隙・段差の因子2.1 物理指標への変換 車両外装は,フェンダーやボンネット等の金属部品とNo.34(2017)に比べて,寄与率96%以上で法線ベクトルがラインズレに対して影響することが確認できた。 この結果を人間工学的に考察した。人間がラインズレを識別する能力=副尺視力によると,視角3~10秒ズレが検知でき(1),これを角度に置き換えると約0.003°となる(Fig. 5)。車両評価を模擬した空間で理想状態の2枚の平面鏡で考えた時,段差を部品の最大許容差である2mm変化させたとしても,幾何学的にはラインズレ量は視角約0.05°である。一方の法線ベクトルではわずか1°変化させただけで視角約1.37°のズレ量となり,段差の変化に比べてはるかに視認しやすいことが分かる(Fig. 6)。このことからも,車両外装において面の連続感を作り込むには法線ベクトルが重要な指標であることが確認できた。 Fig. 2 Material of Vehicle Parts and Parting Line Fender (Sheet Metal)Parting Line Bumper-Face (Plastic)Surface AFig. 4 Reflection Line on Solid Model EyeL StepGapFig. 3 Normal Vector Reflection Line0.003° Fig. 5 Vernier Acuity Reflection LineS 2. 面の連続感 S■V1■■■■■■■V2■■■■■■LNormalVectorV1■■■■■■A■Gap∗B■Step∗C■D ■1■ NormalVectorV2■■■■■■

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