マツダ技報 2017 No.34
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AANN なお,ハイアルゴン溶接プロセスでは前述のとおりシールドガス中のCO2を低減しているため,亜鉛めっき鋼板の溶接では一般的なMAG溶接に対して耐気孔性に劣る MAG溶接などのガスシールドアーク溶接は,アークの状態を安定化させ溶接作業性を確保する目的で,アルゴン(Ar)に二酸化炭素(CO2)などを加えたシールドガスを用いる。CO2はアーク熱によって解離し,活性な酸素成分を生じる。この酸素成分と溶融金属が化学反応し,溶接スラグが生成される(1)。 溶融金属中の酸素は,靱性低下や気孔欠陥の原因となるため,溶接ワイヤ中に意図的に脱酸成分(Si, Mn)を添加している。CO2の比率が高くなるほど,脱酸成分を多く添加する必要があり,その分,スラグが多く発生する。 -123- ① Shield Gas Ar+5% CO2O2 O2 O ビード上のスラグ低減には,シールドガス中のCO2量を低減することが有効である。一方で,過度なCO2量の低減は,アークの状態を不安定にし,ビードの蛇行などNo.34(2017) Sec A-Aマツダ技報 溶接ビード上に生成したスラグは,主にガラス質であり,導電性がないため電着塗料の付着を阻害し,その周辺から発錆しやすい。また,スラグの多くは,溶接ビードの止端部(Toe)に残りやすい。ビード止端部は形状による応力集中が生じやすく,スラグ近傍で生じた板厚減少は信頼性に悪影響を及ぼす懸念がある(Fig. 2)。 溶接作業性を著しく悪化させる。また,亜鉛めっき鋼板の溶接においては,ブローホールなどの気孔欠陥を抑制する目的で,CO2を含むことが望ましい。 従って,溶接作業性とスラグ低減を両立するためには,脱酸成分を低減したワイヤを用いて,必要最小限のCO2を有するシールドガス組成を決定する必要がある。本報では,開発した「ハイアルゴン溶接プロセス」について報告する(2)(3) 。 る。導電性を有さないスラグには電着塗料は析出せず,電着焼付時の樹脂の熱フローにより被覆される。溶接工法におけるスラグ量・サイズ低減が耐食性改善(電着の被覆性改善)に有効である。ハイアルゴン溶接は,これら双方の低減を実現できることから,スラグ部の耐食性を改善することができる。 「ハイアルゴン溶接プロセス」のねらいは,以下である。 スラグ量の低減/サイズの縮小に対しては, ①シールドガス中の二酸化炭素量の低減 ②溶接ワイヤ中の脱酸成分(Si,Mn)量の低減 ③溶融池対流制御を用いた溶接終端部へのスラグ集中化 気孔欠陥の低減に対しては, ④パルス制御による高アーク圧力化 である。 ①により,活性な酸素量を低減した上で,②にて母材(Fe),溶接ワイヤ(Fe,Si,Mn等)からなる溶融金属中の脱酸成分を低減し,スラグ(SiO2,MnO)の量とサイズの最小化を図る。③では,溶融鉄に対する表面活性元素である硫黄(S)をワイヤから添加することで,溶融金属の表面張力を低下させている。これにより溶融金属の対流が強化され,溶接中に生成されたスラグをビード終端部に凝集させることが可能となる(Fig. 3)。 2.1 ハイアルゴン溶接の基本プロセス 溶接部の早期発錆は電着塗装の被覆不足が原因で生じO bFig. 1 Chassis Condition after Car Corrosion Test Slag End Fig. 2 Schematic of Welding Bead StartFlank Angle ToeWelding Wire ②(Fe,Si,Mn),③(S) Arc PlasmaSlagWelding MetalFig. 3 Schematic of Welding Basic Process TorchMolten Pool Moving DirectionBase Steal (Fe)CO2 2. ハイアルゴン溶接

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