マツダ技報 2017 No.34
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2.2 画質条件 -129- No.34(2017) 2.1 見せる範囲 運転者にとって走行時に必要な視覚情報とは,走行範マツダ技報 を図ろうとしている(1)。 直接見えない死角領域の情報をカメラモニターで提供し安全運転をサポートするためには,モニター映像の瞬読性(直観的に認知できる)を高め,かつドライバーが迷わず判断・操作できる状態にする必要がある。 このような状態を作るため,改めてカメラモニターシステムの認知性について検討した。 マツダではこれまでも独自に対象物認知要件を開発してきた。それは,経験値から設定した基準に従って部品の形状/配置を設計するスタイルであったが,今回の360°ビューモニターの開発にあたり,もう一度人間にとって理想となる死角領域情報の認知要件はどうあるべきか,を検討した。 モニター映像の認知性が重要である理由として,運転している人から本来見えない領域を見せる間接視界は,脳内で現実世界への置き換えを行うため,直接視界での認知に比べ時間を余分に要する。例えばバック駐車の際にバックカメラ映像を見て,駐車エリアはどこか,周りに障害物があればそれはどこにありどれだけ離れているのか等の情報を自身の中で情報整理した上でないと正しい運転操作ができない。また,モニター映像の情報提供が好ましくない場合,人によっては自身の中で状況がうまく整理できずに誤認知し,ヒヤリハットや事故に至る場合も考えられる。そのため,正しい情報提供と直観的に把握しやすい(瞬読性の良い)モニター映像による情報提供手法は極めて重要な課題である。 そこでマツダは,各運転シーンにおいて,人は直接見えない死角領域の何(対象)が見たいのか,そしてその対象を認知するための条件は何なのか,どのような代用特性をもって判定すれば良いのかについて究明を進めた。 視覚による空間認知性には3つの要素がある。①対象物が何かが分かること,②対象物との相対位置関係が分かること,③対象物の相対速度が分かること,である。①は対象物(人や車等)の輪郭が判別でき物が何かが分かること,②は対象物との距離や方向が判別できること, ③は対象物の相対的位置変化が判別できること,という意味を持つ。 このような考えを基にして代用特性を検討した結果,低速走行時には,1.見せる範囲,2.画質条件(ボケ,歪み)の定義付けが必要と考えた。以下にその詳細を記述する。 囲に障害物が存在するかどうかである。衝突する可能性の有無を推測するための必要最小限の情報を得ることで,(1) 代用特性 ①ボケ Fig. 1のように物体の輪郭がぼやけていると,その物体がどのような形なのか,どのような種類のものなのか,Fig. 2のように,映像の歪みが発生していると,壁までの距離や物体の存在する方向を正しく把握するため,脳運転者は正しい判断ができ適正な運転操作が可能となる。必要以上に見せる範囲の情報を与えた場合,余分な視覚情報に注意資源を使ってしまい,重要な情報に注意資源を集中できない可能性があるため,見せる範囲は必要最小限の範囲とする。具体的には,走行時に障害物を認知し,その車速からブレーキングして車両停止するまでの距離を前後方向の見せる範囲とし,左右方向については,フル舵角でハンドルを切った場合の停止距離を見せる範囲とする。 モニター映像において,前述した見せる範囲の中に見たい対象物(人や物)の存在を認知する必要がある。対象物の存在がわからなければ,そこには何もないと誤認識し,運転操作した結果,危険な状況に至る可能性がある。その原因は,視覚的に対象物の輪郭が判別できないことによる。 を正しく認知できない。このように,映像上の物の輪郭がぼやけている状態の程度を測る代用特性を「ボケ」とした。 ②歪み 対象物の存在認知とともに,自車両と対象物との相対位置関係,そして,進もうとする方向が正しく認知できるかどうか,が適切な運転操作に対し重要なポイントとなる。 対象との相対位置関係が認知できないということは,方向および距離を正しく把握できてない状態である。 内で補正を行う必要がある。つまり,認知のため,直視より長い時間と注意資源が必要となる。更に誤認識をひき起こす危険性もある。 このようにモニター映像上の物体間の相対位置関係把握の正しさを測る代用特性を「歪み」とした。 Fig. 1 Blur 2. カメラモニターの認知性要件

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