マツダ技報 2017 No.34
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ブレない開発思想を持つこと: 「ブレない」という言葉が意味するところは深く重たい。なぜなら,何百人何千人のエンジニアが同 相互理解・相互支援に基づく全体最適・機能統合: これは,マツダが比較的小さな会社・組織であることをむしろ強みとした,クルマ全体レベルでの取 ― 1 ― 「人間中心」,マツダはこれまで,この考え方を「クルマ造り」の根幹・土台として大切にし,そのNo.34(2017) マツダ技報 ための技術を磨いてきた。例えばドライビングポジション。人にとって力の入らない自然な運転姿勢が,操作を素早く正確にできる基本・クルマ造りの一丁目一番地ととらえて,理想の運転姿勢を造り込んでいる。 私は,このような「クルマ造り」においてだけでなく,「人造り」「組織造り」においても「人間中心」でありたいと考えている。それは,「クルマ造り」をもっとも良く知っているのは現場のエンジニアであり,その現場の力を最大限に引き出し,十二分に発揮してもらえる活力ある風土を造り続けることが,私をはじめ多くのマネジメント層の大きな使命の一つだからである。 そのために重要なことは,「ブレない開発思想を持つこと」と「相互理解・相互支援に基づく全体最適・機能統合」であり,そして何より,「自分達のありたい姿を自ら描き,自ら目標を定め,何年かかっても,もしくは何世代かかってもそこへ行く,という強い意志を持ち続けること」である。 時に仕事を行っている現実からすると,各自の瞬時瞬時の思考・判断に迷いがなく突き進んでいる状態こそが,この上もなく活性化された質の高いエンジニア集団を生むからである。そのために,マツダではここ10年の間に,目標設定や開発の考え方を根本的に変え,ベンチマークや他社比較ではなく(もちろん,エンジニアとして謙虚に他社を知り,優れたところを勉強することは大切にしながらも),「理想は何だ」に象徴される理想追究・理論限界を極める思考に変革してきた。例えば,クルマは機械として,道具として,それを操る人間にとってどんな天候変化や道路環境変化でも常に扱いやすいことこそが絶対的な理想であり,普遍的な人間というものの徹底的な研究に基づいた思考・判断が,ブレを生まない肝と信じている。 り組みである。例えば,プラットフォームが受け持つ主な機能として,衝突/操安性/乗り心地/振動騒音など多くの性能のエネルギーを吸収・伝達・減衰する役目があるが,それぞれのエネルギーを個々執行役員 松本 浩幸 巻頭言 Hiroyuki Matsumoto 人間中心の人造り Human-Oriented Human Resources Development

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