マツダ技報 2017 No.34
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4.2.2 構造と工程の同時開発 従来の量産準備は,開発部門で承認された設計図面を 4.3 具体的な取り組み事例の概要紹介 以下,本特集にて紹介する4事例の概要を紹介する。 1) プレス工程設計での取り組み(1) プレス成型の工程設計は,材料特性等量産性を踏まえ,各工程金型の構造,及び形状CADモデルを設計する。「魂動」デザインをCADモデルで実現するには,デザイナーが発する言葉とCADモデルとの相関性を見出す必要があった。デザイナーとの対話を繰り返し,必要な知識やスキルを習得し,必要なCADモデルの補正要領をひとつひとつ積み重ねた結果,机上段階での① デザイナーの「想い」を理解し,共有する。 ② 提供したい価値を“人の感性のメカニズム”に直接 ③ 物理限界を追究し,材料・工程・ボディー構造の -73- No.34(2017) マツダ技報 この活動を始めるまでの生産技術は,商品を量産化することが主目的だったため,量産準備の中で顕在化した課題の一部は,デザイナーに部分的なデザイン変更を依頼するなど,生産上の要求がお客様価値の実現に対して制約となることがあった。 しかし,「モノ造り革新」を開始以降,これらの活動によって,生産技術部員の意識も,デザイナーがデザインを通して表現したかった「想い」を,そのままの形で実現し,価値として提供することが,生産技術の使命である,とマインドを変革することができ,今日のマツダのクルマ造りやその商品価値の深化につながっている。 生産部門が受け取り,量産準備を行う活動となっていたため,“図面品質をバラツキなく低コストで実現”することや“期間短縮”を重視した活動となっていた。 しかし,「モノ造り革新」以降は,「デザイナーの想いを忠実に実現し,お客様に価値として提供する」というビジョンを部門の壁を越えて共有し,担当部門ごとに達成すべきターゲットを設定して活動してきた。互いの専門性をぶつけ合い,構造とそれを生産する工程を同時に開発していくことで,既成概念では不可能とされていた技術課題を,ビジネス効率を高めながら克服することができた。 「魂動」デザイン実現のプロセスは以下のとおりである。 働きかける物理特性に変換する。 三位一体で量産化技術を確立する。 作り込みの仕組みを確立し,金型製作部門や実機での品質保証領域など実機段階へと引き継ぐ業務プロセスへと変革した。 2) プレス金型製作での取り組み(2) プレス金型を製作するに当たり,デザイナーの「想い」どおりの繊細な局面の連続を実現するため,機械加工においては,各種加工精度向上の取り組みにより,「魂動削り」という新工法を確立した。また仕上げ領域において,磨き作業精度向上の取り組みによって,「魂動磨き」という新たな磨き工法を確立した。これらの工法は,ツーリング製作部,及びデザイン部門のクレイモデラー,砥石メーカー様との共創活動により構築したもので,マツダ独自の磨き方法と,専用のツールの開発により実現した。 3) 塗装領域でのカラー開発の取り組み(3) 「ソウルレッド」に代表される高意匠カラーの開発では,デザイン意図を理解し,それを光学特性に置き換えて塗膜構造を設計した上で,塗料と工程をセットで開発する共創プロセスで行っている。更に新型CX-5に導入された「ソウルレッドクリスタルメタリック」の開発では,新開発の高彩度な赤色顔料を用いることで,赤色をよりピュアに発色させるとともに,光を吸収してシェードの濃さを強める「光吸収フレーク」を採用することで,従来は2層だった深みの表現を1層で実現するなどして,これによりハイライトな鮮やかさとシェードの深みを大幅に向上させると同時に,通常工程での量産化を実現した。 4) 車両領域での取り組み(4) 「魂動」デザインのクルマ外観表現では,金属から削り出したかのような塊感がクルマ全体で必要である。例えば,ボンネットやフェンダーと隣り合うバンパーで構成される外観も,あたかも一枚面であるような面の連続感を持つことで,「美しいリフレクション,艶やかなフォルム」を実現できると考えた。そこで,部品間の法線ベクトルのズレと映り込みの違和感の関係性を人間の視覚特性の観点から明らにし,活動を進め,面造りのプロセスを構築した。具体的には,法線ベクトルによる定量評価に加え,ゼブラパターンによる映り込み評価を併用し,図面段階で,面を通すために必要な,ボディー・プラスチック金型構造や部品構造の作り込みを実施した。これにより,デザイン意図どおりの面の流れを,量産で実現した。 5. おわりに 「モノ造り革新」を始める以前の量産準備では,車種間で一貫した考えにもとづく,造形及びカラー開発活動が十分できていなかったが,「モノ造り革新」以降の量産準備では,「魂動」デザインという一貫したデザインテーマのもと,造形を極め,それを際立たせる色の追究を,関連部門が一丸となって取り組み,実現することができた。また,国内のマザー工場で培われたモノ造りの

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