マツダ技報 2017 No.34
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4.4 課題解決のための新規材料開発 2つの課題に対し,塗料原料に遡った技術開発により, 4.3 塗膜設計 ねらいの光学特性を実現するため,塗膜内の光の経路 1つ目の課題は,既存の高彩度赤顔料の組み合わせでは,2つ目の課題は,試作品の3層構成を機能はそのままに2層に集約することである。マツダの塗装工程で3層を塗装するには,上塗工程を2回通す必要があり,環境性能,経済性,生産台数が規制になる。 -90- マツダ技報 値を実際の車の繊細な面の変化として表現できるカラーとして塗膜で忠実に表現するためには,色の設計図が必要となる。そこで,人が美しいと感じる赤を追求するため,人間が色や質感を感じる仕組みを基に数値化を行った。具体的には,Fig.9で示すように表現したい価値を特性に変換し,色の設計図となる光学特性へ落とし込んだ。 に沿って各塗膜層の機能を設計した。まず,「シャープな赤の波長分布」を透過層に分担させた。透過層は,赤以外の波長の光を効果的に吸収させる機能に特化させる。そして,透過層の下層に「金属の反射特性」と「ハイライトとシェードの光量差」を分担させる。具体的にはマシーングレープレミアムメタリックの塗膜構造である反射層と吸収層の組み合わせで実現できると考えた。 実際に透過層,反射層,吸収層の3層構成で,既存原材料を組み合わせて試作品(Fig.10)を作った結果,ねらいの光学特性への実現性と課題が明らかになった。 目標である「透明感ある鮮やかな赤」を再現する波長特性が得られないことである。そのため,ねらいの波長特性を得るための新たな顔料の開発が必要である。 No.34(2017)解決していった。 (1)鮮やかな赤を実現する高彩度赤顔料 「透明感」と「濁りのない鮮やかな赤」を実現するため,人間が色を認識する目の仕組みを基に,人が「赤」を感じる理想の光のスペクトルを設計した。人間の網膜にある視細胞は外部からの「光の情報」を「電気信号」に変換する役割があり,その中の赤・緑・青の錐体細胞が,それぞれ特定の範囲の波長に反応することで色の識別をしている。このことから「透明感」と「鮮やかな赤」を感じるには,赤錐体が反応する範囲外の透過率を抑えることが必要と考え,ソウルレッドクリスタルメタリックで表現したい理想のスペクトルを定めた(Fig.11)。 一般的に光が顔料粒子にあたったとき,顔料の物質固有の光の吸収特性を示す。一方で,顔料表面では一部の光が乱反射する。この乱反射は入射光の波長をそのまま反射するため,太陽光において乱反射光は人の目には白く見える。そのため,顔料が持つ波長特性を十分に生かすことができない。 顔料粒子サイズが大きいとより乱反射が起こるため(Fig.12),顔料粒子サイズを小さくして乱反射を抑えることで,シャープな波長特性を得ることができ,理想のスペクトルに近づけることができる(Fig.13)。 Fig. 9 Conversion to Optical Characteristics Fig. 10 Film Structure Fig. 12 Diffused Reflection Depend on Pigment Size Fig. 11 Ideal Spectrum

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