マツダ技報 2018 No.35
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-113- 既報の事例(4)では,上記条件を満たしたテスト鋳造機に,アクリル窓を設置して金型背面より流動を観察して 2.2 ダイカスト湯流れ可視化に向けた課題 砂型を用いた重力鋳造では,型の天井面を成形する砂 Fig. 2左は,「水モデル」と呼ばれる,アクリル型に着色した水を流し,その挙動を可視化した事例である。ない。このため,湯流れ中の金型-溶湯間の熱マネジメントの観点から,型材には工具鋼を使用する。 いる。射出駆動にサーボモーターを採用することは実験の再現性が高く,比較的簡略な機構でテスト鋳造機が設計できる。しかし,射出速度を十分に上げられないためゲート速度やキャビティー形状の自由度に制約が伴う。また,サイクリックに鋳造して金型温度上昇を実体に模した形で再現を試みたくても,型締め・型開きの機構面の煩雑さからテスト鋳造機は不向きである。 この課題を解決するためには,量産鋳造で用いるダイカストマシンや補助材(チップ潤滑や離型剤など)を使用した可視化実験が必須であると考えた。 型の開閉機構,そして射出後に注湯口を押し込む鋳造圧力によって,金型が開かないように保持するための丈夫な構造物(プラテン)が備わっている。このため,この方向で湯流れを撮像・記録する装置を設置するのは,制約が多い(Fig. 3)。 Fig. 1 Cylinder Head Experiment Fig. 3 Structure of Die-Cast Machine Fig. 2 X-ray Transmission Imaging No.35(2018) 2.1 湯流れ可視化の取り組み 溶湯流れの実態把握は,旧来よりさまざまなアプローマツダ技報 チで取り組まれている。それは,流動現象を視覚的にとらえる手段(可視化)と,流動経路に仕込んだセンサー類で間接的に検出する手段(点灯法)に大別できる。 可視化は流れを直接観察できる反面,実際の鋳造と異なる何かを犠牲にするデメリットが発生する。点灯法は,溶湯流路に配置したセンサー類(例えば,熱電対)から得られる信号がアウトプットであり,溶湯流れの速度や方向を測定結果から類推する間接的な検出手段である。次節では,ダイカストの湯流れを可視化するにあたり,過去の可視化事例を交えながら取り組み課題を明確にする。 型を取り外すことで,湯流れを可視化することができる。Fig. 1は,シリンダーヘッド砂型の一部を取り去り,溶湯の充填状態を可視化した事例である。しかし,ダイカストでは高速射出で溶湯を流し込むため,キャビティー(型内の閉空間を表す)の露出は溶湯が飛散する危険が伴う。このため観察面には,ガラスやアクリルといった可視化する像を阻害せずキャビティーを密閉する機能をもつ,透明な遮蔽板が必要となる。 この手法は,比較的多くの鋳造プロセスで採用されている。しかし,水モデルは溶湯の代わりに水を使用する都合上,温度低下による溶湯の粘度変化を再現できず,更には比重も水とアルミで異なる。ゆえに,可視化実験で取り扱う流体はダイカストで鋳造するアルミ材を用いる必要がある。 が使用でき,アルミ湯流れの可視化実験に広く取り入れられている(3)。しかし,黒鉛は熱伝導率が一般的な金型材(工具鋼)の約3倍となるため,流動中に溶湯から型への抜熱量が大きくなり,溶湯の流動性を正しく評価できFig. 2右は,黒鉛型内を流動する溶湯を,X線で可視化した事例である。これは,X線を透過できる材料(一般的に,黒鉛)を型材に使用することで,流体として溶湯3.1 可視化構想の概要 一般的なダイカストマシンは型開き方向に溶湯射出や2. ダイカスト湯流れの可視化 3. ダイカストマシンでの湯流れ可視化

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