マツダ技報 2018 No.35
124/149

-117- Fig. 14 Calculation Accuracy for Filling Sim.(Individual) ①Time②Velocity③Pressure ④Viscosity ⑤Gravity 工程は大きく分けて,計算メッシュの作成工程,材料式(1)は湯流れ解析で用いられるナビエ・ストークス方程式である。本稿では,溶湯材料の④動粘性係数νの合 Fig. 14で紹介した実態と解析結果の比較に加えて,Fig. 13で実測した温度結果を組み合わせることによってアルミ材の温度依存の動粘性係数を得ることができる。 Fig. 15 CAE Turning Block Chart (1)No.35(2018) 5.2 湯流れ解析の精度向上 鋳造CAEの精度改善で一般的に用いられるのは「合わせこみ」と呼ばれる手法である。湯流れ解析では,ナビマツダ技報 案する。最初に,可視領域に溶湯が占める割合を「溶湯充填率」とし,可視領域へ充填が始まる瞬間までを溶湯充填率0%,満充填する時を溶湯充填率100%と定義する。 ハイスピードカメラで撮像した像(静止画)をマトリクス状に分割し,そのマトリクスに溶湯が充填する割合を「セル充填率」としてサンプリングする。マトリクスは,必要な分析精度と作業工数のバランスを考慮して分割数を決定する必要がある。ここまでの作業で「溶湯充填率」に対し,マトリクスに分割した数だけの「セル充填率」が定量的なデータとして求めることができる。 湯流れ解析の確からしさを確認するには,可視化実験と同条件で湯流れ解析を実施し,計算結果となるポスト表示(コンタ図)を使用する。手法はFig. 14に示すとおり,同じ溶湯充填率の静止画とコンタ図を抽出し,静止画のセル充填率に対するコンタ図のセル充填率の再現率をセルごとに算出する。例えば,静止画でセル充填率17%に対し,コンタ図でセル充填率100%であればそのセルの解析精度は17%となる。Fig. 14の例では,溶湯充填率30%においてセル充填率の総平均,つまり解析精度が62%であることを示す。この分析を進めた結果,従来の湯流れ解析は52%の整合率であることが判明した。 エ・ストークス方程式を解いて理論的に解を求めるが,計算時間の制約もあり,例えば壁面への熱移動などを完全な理論式で再現することは実用的でない。そのため壁関数など,仮定をもったモデルとして定義する。その仮定をふまえた上で,物理学で説明がつかない結果も可能性として生じるが,実態の情報を衝として解析が最も実体を再現するパラメータを求めることが,合わせこみである。 上記のパラメータに先立ち,鋳造解析を実行する工程表(Fig. 15)を説明する。 の設定工程,境界条件の設定工程での作業者による設定を経て,スーパーコンピューター等で計算を実行し結果分析に至る。例えば計算メッシュのつくり方を変更し,解析の再現性が向上するかを試す場合は,Fig. 15計算メッシュの作成工程に戻ることを表している。 鋳造解析は,燃焼系や塑性領域を含む構造解析に比べると,現象が単純でありその歴史も古い。言葉を換えると,それは最も基本的な物理方程式に基づいた計算がなされており,計算に用いる溶湯や金型の物性値の確からしさが解析精度の根幹を担うともいえる。 溶湯材料の物性値は,特に高温領域において文献情報が乏しく,鋳造解析ソフトの初期(メーカーデフォルト)値を使用している。本稿では可視化実験によって実態を定量的に把握したため,それをものさしとして溶湯材料の合わせこみをすることに着想した。 わせこみを実施した。それは,動粘性係数が流体計算の要となる物性値であるとともに,流体の粘度を測定する手段に理由がある。粘度は,オストワルド粘度計に代表される,ガラス管に注いだ流体の動作を目視で目盛を計測するが,溶融した金属はこの手段では測定できない。つまり,動粘性係数は鋳造解析の物性値合わせこみにおいて,直接粘度を計測した事例が過去に存在しないと考え,最も信頼性が低いパラメータであると判断したからである。 その結果,溶湯の凝固が始まる温度付近の動粘性係数を,■■■■■■■∙■■■■■■■■■■■■■■■■

元のページ  ../index.html#124

このブックを見る