マツダ技報 2018 No.35
17/149

-10- Fig. 1 Concept of Engine Temperature Control in New Vehicle Development Fig. 2 Image of Engine Heat Insulation in Soak Process マツダ技報 Fig. 1の①から③で用いられるいずれの手段も,従来のエンジンにない放熱管理のための新技術であり,それマツダの次世代車種開発においては,このような放熱のコントロールによる温度管理ついてFig. 1に示す考え方で開発をしている。具体的には,①始動時は冷却水への放熱を抑制することによりエンジン本体の昇温速度を高め,②燃焼に合わせて適温の状態を維持しながら運転し,③ソーク過程についてはエンジン停止後の放熱を抑制し,温度低下を小さくすることで,④再始動時の温度を高くすることにより昇温時間を短くする,というものである。①の過程においては,冷却水への放熱を抑制するため,冷却水流量を小さくする制御を行っている(1)。今後は,更に昇温時間を短縮するために,冷却水流量を停止し,熱伝達による放熱を限界まで小さくすることを目指している。②以降は目標とする燃焼室壁温に到達後も,燃焼安定性の維持とエンジン本体の信頼性それぞれの要求を満足するよう,冷却水流量の制御を行う。③のエンジン停止後では,エンジンの放熱先はエンジンルーム内の雰囲気になる。雰囲気への放熱を抑制するために,断熱材をエンジン表面に設置することで,エンジンと雰囲気の間の熱抵抗を大きくする。しかし,エンジン本体の全ての表面に設置することは難しく,設置できない部位から熱が逃げてしまうため,これだけでは十分な効果を発揮できない。そこで,特に断熱材が設置しにくいシリンダーヘッド周辺をカバーで覆い,エンジンの熱で暖まった雰囲気をエンジン周辺にとどめ,シリンダーヘッド表面と雰囲気の温度差を低減することで熱伝達による放熱を抑制する。Fig. 2に断熱材とカバーの配置イメージを示す。らの改善効果を発揮しつつ,部品の温度が上がりすぎることによる耐熱性,あるいは熱疲労による信頼性の課題を解決する必要がある。それには,始動からエンジン停止以降の熱流れと温度変化のメカニズムを理解した上で,最適な温度コントロールの方法を開発の早期に決める必要があり,その実現のため熱流れのモデル化と机上検討手段の確立を目指した。法が広く用いられている。マツダにおいても,高負荷定常運転時の熱応力に対する信頼性評価のために,同様の手法を用いて温度を予測し(2),冷却のための対策構造を検討してきた。しかし,今後の開発では,早期昇温,燃焼と信頼性に対する適温維持,キーオフ後の保温という非定常状態の温度管理のために流体の熱伝達による放熱を適宜コントロールする。また,冷却水制御やエンジン保温などの技術によって,従来支配的だった経路の放熱が抑制され,エンジン本体内の熱伝導経路が大きく変わる。これらを考慮した上で筒内壁温管理の最適な方法を早期に決定するためには,部品の詳細な構造を考慮した過渡の伝熱現象の予測が必須であった。しかし,前述の定常状態の温度予測技術は,流体の流れとエンジン本体の熱伝導の計算を分離しているため,流れの時間変化とそれに伴う熱移動の変化を考慮することができない。そこで,流体の流れとエンジン本体内の熱伝導を同時に計算する連成解析技術を開発した。具体的には, ①ウオータージャケット内の冷却水流れの時間変化を考慮したエンジン本体内の伝熱解析技術,②ソーク中の エンジンルーム内の自然対流を考慮したエンジン本体内の伝熱解析技術を開発した。その詳細を以降で説明する。 始動からソークまでを含めた過渡のエンジン熱流れと温度変化を予測するには,まず,放熱先である流体の流れ,熱伝達を精度よく計算しなければならない。特に,ウオータージャケット内の冷却水の流れは,エンジン本体からの放熱量や温度分布に大きな影響を与えるため,その予測精度が重要である。 そこでまず,冷却水流れの可視化計測と,その結果を元にCFDモデルの改良を行うことで,流速,及び熱伝達率分布の予測精度を改善した。その上で,エンジン本体から冷却水への熱移動を時々刻々と計算するために,熱2.2 サーマルマネジメント開発に向けた予測技術 エンジン内熱流れ・温度予測には,定常運転条件を対象に,燃焼ガスと冷却水の流れ・温度をCFD(Computational Fluid Dynamics)で計算し,その結果をエンジン本体の熱伝導解析の境界条件として用いる手No.35(2018)3.エンジン温度変化の予測技術

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る