マツダ技報 2018 No.35
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(a) Step-wise Temperature (b) Transient Temperature -13- (a) Structure Model (b) Coolant Model Fig. 10 Difference in Strain Calculation by Transient Temperature Profile Fig. 11 Mesh Model of Engine Conjugate Heat Transfer Model No.35(2018) 3.2 エンジンの非定常温度予測技術 マツダ技報 このような詳細精度検証とCFDのモデル化・計算方法改善により,ウオータージャケット内の流速分布の計算精度を確保した。冷却水制御では流量が大きく変わるため,上記の検証は25, 130[L/min]の条件で行い,いずれの流量においても良好な精度を確認している。 従来の定常運転における温度解析は,熱の流れが一定となった状態を計算するため,定常状態の冷却水流れをCFDで計算し,その結果をエンジン本体の温度解析の境界条件とすることで予測ができた。しかし,非定常過程では流体とエンジン本体が相互に影響することで熱移動量が変化するため,この手法を用いた温度予測は難しい。 開発における温度の時間変化の重要性を,シリンダーヘッドの歪みを例に説明する。エンジンを定常状態まで運転し,その後停止して冷却する過程における温度と歪みを,CAE(熱応力・歪解析)と実験で比較した結果をFig. 10に示す。Fig. 10(a)に示すように,従来の定常温度解析手法ではステップ状の温度変化しか考慮できないため,歪みが成長する温度変化過程の予測が難しい。一方で,Fig. 10(b)のように実機の温度変化を考慮することができれば,歪みは実測とよい一致を示しており,温度変化が信頼性に対して非常に重要であることが分かる。 エンジン本体温度の管理による燃費改善を実現するためには,目標温度の早期達成だけでなく,温度が変わる際の熱応力・歪に対するエンジン本体の強度を確保することも重要であり,温度変化の予測が開発に与える影響は大きい。そこで,エンジン本体の熱伝導(構造)と,冷却水やエンジンルーム内雰囲気の対流(流体)を同時に計算する,非定常の構造流体連成解析技術を開発した。 まず,冷却水制御によるエンジン本体温度予測の手法について説明する。ここでは,流体領域であるウオータージャケットと,固体領域であるエンジン本体を1つのメッシュモデルで構築し,エンジン全体の熱バランスを計算することで温度分布を求める方法を採用した。これが,構造流体連成と呼ばれる解析手法である。流体の変化による熱バランスの変化を精度よく計算できるため,非定常の温度解析手法として適している。 冷却水流れと同じくICONCFD®を用いて,この手法によるエンジン本体の非定常温度予測技術を開発した。Fig. 11にエンジン本体,冷却水領域のモデルをそれぞれ示す。固体はFig. 11(a)に示すように,エンジン本体(内部の吸排気バルブ含む)とエギゾーストマニフォールドをモデル化した。エギゾーストマニフォールドは非常に高温になり,シリンダーヘッドとの接触部位に対する熱源となるため考慮している。部品間のクリアランスに起因する熱抵抗は,接触熱抵抗によりモデル化した。 エンジンへの入熱要因となる燃焼ガスの流れや温度は,1次元のエンジン解析ツールの計算結果を適用した。燃焼ガスの温度は冷却水やエンジン本体の温度に比べて高いことから,燃焼ガスからの入熱は水温・壁温では変わらないと仮定し,入熱量は一定とした。 シリンダーブロックへの入熱は,ガスからだけでなくピストンを経由してライナーに入るものもあるため,1次元モデルにピストン―ライナー間の熱伝導を考慮し,ライナーへの伝熱量計算結果を当該部位への熱境界条件として適用した。 エンジン停止後の放熱を予測する上でも同様の手法は有効であり,この場合はエンジン本体からの輻射,及び内部の伝導とエンジンルームの雰囲気流れの連成計算となるが,大きく異なるのは評価時間の長さである。 キーオフから再始動までの時間は,毎日車に乗るお客様を想定すると一晩程度と考えられ,つまり数時間レベルでの保温が必要である。このような長時間の解析評価を,3次元の非定常CFDで行うのは計算負荷が高く,非現実的である。一方で,複雑な形状の部品が配置されるエンジンルーム内の自然対流や,エンジン構造体内の伝熱を,1次元モデルで精度よく再現することも難しく,計算負荷の低減と精度の確保が課題であった。 この課題の解決のために,エンジンルーム流れのCFDと伝熱解析の計算を交互に一定の時間だけ実行し,計算切り替え時にCFDと伝熱計算の結果を交換する仕組みを開発した。流れと伝熱の解析ツールには,それぞれICONCFD®と輻射・伝導解析プログラムPowerTHERM®を用いている。ここで,エンジン本体の温度変化が小さい間は雰囲気の流れは一定と仮定し,

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