マツダ技報 2018 No.35
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さて今回のマツダ技報は,SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTUREなどの次世代技術を含む興味深い技術論文が多数寄稿されている。地球・社会・人に想いを馳せ,自ら定めた高い目標に向けた挑戦を続けるエンジニア諸氏に感謝の念とエールを送りたい。私がSKYACTIV技術の開発を担当していた当時も多くの難題に直面したものだが,一心不乱に技術開発に没頭していたあの時期は第2の青春のように楽しかった。今現在苦しみ悩んでいるエンジニアもいるかもしれないが,原理原則に基づいてやり続ければ,課題解決に導く技術や人との出逢いが待っており,仲間はきっと支えてくれる。 2年後に迫った創業100周年は通過点に過ぎないが,今日まで存続できたことを素直に喜ぶとともに,先人達の弛まぬ努力に心からの敬意と感謝を表したい。その上で,人の心と身体を元気にするマツダのクルマが健康医療器具として認定され,ドイツ人が発明した内燃機関はマツダが完成させた,マツダのデザインはアートの域に達したと認めて頂ける日を夢見て,マツダに係る全ての人々を幸せにするという大義を脈々と引き継ぎながら誠実なクルマ造りを続けていきたい。その結果として,次の100年も存続する企業になれればこれ以上幸せなことはない。決して容易なことではないが我々マツダにはそれができると信じており,そのために私自身も最善を尽くし完全燃焼するまでやりぬく覚悟である。 ― 2 ―つけてやまない日本の美意識を体現するデザインなどの顧客提供価値に他ならない。 一方,自動化や電動化の台頭により100年に一度の変革期と言われている今,従来提供価値の正常進化に留まっているだけでは生き残れないが,他社を模倣するような変化に留まってはマツダの存在意義はなくなる。つまり,永続するためには,トレードオフ関係にある伝統と変化のブレークスルーが必要となる。したがって,上記のような最新技術を導入する目的・意義を真剣に考え抜き,企業理念・哲学に照らし合わせた上で取捨選択してブランドバリューを定義すること,言い替えれば,技術や世の中の変化を捉まえてマツダらしさを体現することこそが時代に合わせた変化の必要条件だと考える。 例えば,人間の能力の最大化を基本とし,ドライバーに異常が生じた場合にのみ人命保護を目的とする自動走行・停車を実行する自動運転コンセプト“Mazda Co-Pilot Concept”は,常に人とクルマがひとつでありながら状況に応じて主従の関係を変える究極の人馬一体性能であり,高齢化社会においても安心・安全な運転を提供できるクルマだと考える。また理想燃焼の実現による軽量・小型・安価でシステム効率に優れる電動化技術の導入や, EVの課題解決のためのレンジエクステンダーとしてのロータリーエンジンの復活などは,社会変化と最新技術を通してマツダらしい価値を提供する技術戦略ではないだろうか。 そしてこれらの戦略は,いずれも手戻りのないビルディング・ブロックの構造を持ち,結果的に濃淡を持ちながらもマルチソリューションにつながっていることがわかる。しかし,純粋な科学分野とは異なり,各社/各人の行動が次の行動や結果に影響を及ぼす,自動車業界を取り巻く社会科学的事象の将来を予測することは不可能であることを考えると,さらなる潜在的な変化に対する適応力が求められる。例えばEVの領域では,飛躍的なバッテリーコスト低減をもたらす技術革新や社会通念の急激な変化などにより,地域ごとに異なる複数車種のEVが必要となる時期が来るかもしれない。それに備えるためには,全ての車種に適用可能な専用プラットフォームを準備する必要があるが,そのリスクマネージメントを最高効率で実行するための鍵となるのは,やはり一括企画・コモンアーキテクチャー・フレキシブル生産というマツダ独自のプロセスなのである。これは新世代商品開発にあたり,飛躍的なビジネス効率向上を果たすために編み出した戦術であったが,経営のフレームワークが劇変する中でマツダ単独で存続するための原動力となり,そして今マツダの規模でマルチソリューションを持ち,時代変化に備える力になりつつある。すなわち,我々の仕事の進め方そのものの進化も生き残りのための条件である。 今後はあらゆる技術領域において,モノ造り革新プロセスと我々の他方の強みであるMBDとの連携を深め,異業種を含めて仲間を世界中に増やしながら戦術を磨きあげることで,いかなる時代にも通用するマツダらしさと,いかなる時代変化にも適合できる力を身につけていきたい。 よって,『答えは必ずある』というフェローの言葉を信じ,諦めることなく自己成長に向けたハードワークを楽しんで欲しい。これは,先輩エンジニアの私の経験を通しても,真理だと断言できる。 マツダ技報 No.35(2018)

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