今後とも,マツダ技報において,理想の姿に真っ先に近づくためにモデルベース開発を駆使し,独自― 2 ― 2012年当時,世の中はハイブリッド,電気自動車というシナリオが主流であり,それに対し内燃機関は効率改善の余地が沢山残されていることを主張したSKYACTIV技術は,再び内燃機関の価値に目を向けるという大きな影響を業界に与えることができたと思っている。しかし,2019年の今はCASEという形で,内燃機関だけでなく,自動車業界がさらなる厳しさを増している。いまこそ踏ん張って,ここで紹介する新世代商品群を世に問い,正しい方向とは何かを考える機会を再び提供したい。 マツダ技報 No.36(2019)がしてくるから不思議だ。 構成部品については,年々技術レベルの向上が図られており他社や自社のガソリンやディーゼルエンジンで活用している要素技術の採用がほとんどであり,新しいハードウエアとしては筒内圧力を監視するセンサーと,ガソリンエンジンとしては高圧の燃料噴射装置であろう。それでもガソリンの圧縮着火によるリーン燃焼という夢の扉を開けることができたのは,モデルベース開発を愚直に実行してきたからに他ならない。複雑な空気流動と,その中での燃料噴霧のふるまい,そして火炎伝播と圧縮着火と形態の異なる燃焼の化学反応をモデル化し,それらをリーン燃焼に必要なより多くの制御パラメータの組み合わせにより最適化させるための膨大な燃焼解析計算をおこなった。連携しあうそれぞれの領域で等しく高精度なモデル化が実現でき,そのからくりを理解した高度な制御技術、そして生産技術をはじめとする独自のものづくり力がなければ,ここまでたどり着かなかったであろう。モデルベース開発は私達技術者の文化になっており,全員がその有用性を得心し,そのことによってイノベーションを起こすことができることを理解する土壌ができつつあることが何よりもうれしい。今後もモデルを使ってより広く大きな世界で連携し適用を図っていくことが,さらなる技術進化へとつながると確信している。 ガソリンエンジンは第2STEP技術の展開とFinal STEPへと向かう。最も効率の良い火力発電の電気で走るEVよりもWell to WheelでCO2排出量の少ない内燃機関中心の車の早期実現を目指す。 技術は,人間の生活を豊かにするために使われるべきである。究極の姿を実現することは,それを実現することによって,人々の生活が心身共に豊かになるから意味があるのである。 無駄をなくすこと,効率を高めることは技術の一側面であり,それが与える人への影響を考えないで数字だけ追い求めることは,人間中心の技術とはいえないであろう。燃料をあまり使わなくても沢山の仕事が広い範囲で取り出せてきれいに燃やせて音が気にならない方向へ,応答の良さはクルマを身体が拡張したかのように扱える方向へコントロールし,コストがかからない工夫とともに,心豊かな人・社会の実現を目指す技術へと進みたい。それゆえ,技術は人間中心の哲学の下,その経済性,弊害,をしっかり確認し対応しながら,技術に対して謙虚な姿勢を忘れずにゆっくり急いで進化していくことが大事だと考える。 性あふれる正しく理にかなった技術の紹介が続いていくことを期待し,巻頭言とする。 SKYACTIV-Xは,ガソリンエンジンの第2STEPのエンジンである。詳しい技術内容については本篇に譲るが,ガソリンエンジンの理論熱効率は圧縮比(どれだけの仕事をとりだせるか)と比熱比(投入した熱量をどれだけ仕事に変えられるか)が高いほど,高まることが知られている。第1STEPは,圧縮比を高めることに着目し,第2STEPは,比熱比を高めることに着目した。その際,ディーゼルエンジンの第1STEPで実現した予混合圧縮着火をガソリンエンジンに適用しており,技術をクロスオーバーさせている。
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