マツダ技報 2019 No.36
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-120- 3. 理想音響を創る考え方 Fig. 1 Sound Testing Room 2.2 ダイナミックレンジの拡大 人間の聴覚は20Hz~20kHzの周波数帯域で最少可聴閾Fig. 2 Audibility Range Fig. 3 Resonance of Cabin @100Hz 源に入っている情報を正しく伝える” ということにつながると考えている。精巧に再生された音は楽器や歌声の臨場感や深みを感じることができる。マツダは,その音を再現できる試聴室(Fig. 1)を所有しており,試聴室で聴く音を“音源に入っている情報を正しく伝える”音として定義した。また,録音された音源はスピーカーから再生された音を直接聴くことを前提で造られており,試聴室もその状態で聴くことができる構造になっている。理想の音を造るには,直接音重視で視聴できる構造が重要になる。 値の0dBSPLから最大可聴閾値の約120dBSPL(周波数用により異なる)まで聴く事ができ(1),この範囲で人は音楽を聴いている(Fig. 2)。あらゆる走行シーンにおいて,お客様が常に良い音を聴くことができる状態にするには,ダイナミックレンジを広げ,可聴帯域の全範囲でS/Nの良い音を聴くことができる車両を開発することが必要である。 そのためには,①走行ノイズの低減,②最大可聴閾値付近まで低歪で再生できるスピーカーとレイアウト,③再生音により異音を誘発させない車両構造の3つを実現しなければならない。 人の可聴帯域は20~20kHzと幅が広く,周波数により聴こえ方,音の伝搬が異なる。したがって,周波数による振る舞いの違いを把握し,最適な位置にスピーカーを配置することが重要になる。そこで,音の帯域を20Hz~200Hzの低域と200Hz~20kHzの中,高域に分け,音の聴こえ方,音の伝搬,スピーカー構造の観点からそれぞれの理想構造を考えた。 認知しにくくなる。車室内での音の到来方向について実験的に調べると,左右前後の方向が認知できるのは70Hz以上,上下については200Hz以上であった。したがって,ステレオ再生するには左右のスピーカーから70Hz以上の音を再生する必要がある。また,200Hz以下の音のみを再生するスピーカーであれば,低い位置に配置しても定位感を損なわれることはない。 音の伝搬では,閉空間で発生する定在波が大きく影響する。定在波には腹と節がある。節は逆位相の音波が重なりあい振幅しない場所であるが,この節の位置にスピーカーを配置するとスピーカーの再生音が位相反転した反射音と干渉し音圧が低下してしまう。特に波長の長い低域は,定在波の節と腹の間隔が広くなるためスピーカーの位置による音圧への影響が大きくなる。この定在波の影響を可視化するためCAE解析を行った。従来スピーカーを配置していたドア付近は100Hz~200Hz辺りで節となり再生効率が悪く,車室内の隅は腹となり再生効率が良くなることが判明した(Fig. 3)。 更に,CAE解析を裏付けるため小口径のボックススピーカーをドアと車室内隅に配置し音圧レベルを比較すると,これらの結果より,低域再生用スピーカーは,車両隅であるカウルサイド下に配置することが理想と考えた。 マツダ技報 3.1 低域再生 人間の聴覚は,周波数が低くなるにつれ音の到来方向を CAEの予測どおり車両隅で音圧レベルが上昇した(Fig. 4)。Fig. 4 Difference S.P.L. of Cowl-Side Layout No.36(2019)

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