マツダ技報 2019 No.36
157/321

■著 者■ -148- 4.2 ワイパー性能の机上評価 従来,機構設計を主体としてきたワイパー開発におい4. 機能進化とモノ造りのつながり 5. おわりに 参考文献 Fig. 12 Structure of Wiper System 4.1 生産工程でのAピラー学習 新世代ワイパーの開発は五位一体(生産,購買,物流,Fig. 13 Control Panel for Evaluation 畠中 威 井上 俊一 品証,開発)で行ってきた。ここでは,代表事例としてAピラー拭き残し最小化を生産部門と取り組んだ活動を紹介する。 いかなる制御を部品単体に実装させたとしても,車体や組み付けに伴う製造バラツキは必ず発生する。一般的に複数の部品で構成される車両設計においては製造上の工程能力を基にしたバラツキを考慮しなければならない。それは,今回注力したAピラーとの必要クリアランスも同様であり,作動角制御を用いても解消できない必要な隙が存在した。そこで新型MAZDA3では,ワイパー側の作動角度を書き込み可能な状態にし,工場で車両完成後に一台一台,Aピラーとのクリアランスを学習する工程を追加した。工程構築のために,ワイパーシステムが弾性変形することによる位置決め精度悪化の対応,手動による位置決めで生産タクト要求を満足させるための学習専用モードの対応,生産工程において誤操作をした場合の対処方法など,多くの課題解決を新型MAZDA3量産化と併行し行った。このようにマツダでは五位が一体となって機能進化とモノ造りを支えている。 て,ソフトウェアを中心とした機能進化は,これまでの開発手法を見直すきっかけとなり,新たな取り組みを開始している。新世代ワイパーでは,ワイパー主機能が複数のECUに分散され,検証すべきテストケースは増加し従来の開発手法では全ての評価をしきれない状況が顕在化していた。 そのため新世代ワイパー開発では機構設計の性能検証に加え,車両及び部品の完成前からユニット間のモデル結合による机上検証をワイパー開発として初めて行った。ワイパー作動品質検証,ユニット間の整合性確認を,Fig. 13のような簡易な評価環境を構築し実施した。これによりソフトウェア検証の前倒し,各ユニットの仕様誤認識にMAZDA3のワイパーシステムは,クラスの域をはるかに(1) 前川ほか:自動車用ワイパのトライボロジー技術の50年を振り返る,トライボロジスト第50巻第9号(2005) よる作動不良について早期発見を行った。しかし,机上で検証すべき機能はまだ多分にある。それらは今後のワイパー開発の課題として現在取り組んでいる。 理想からのバックキャストで開発を進めた新型超えた性能を確保できていると自負している。一方で,水膜形成カラクリなど分かっていないことも多く,理想実現は道半ばである。今後も人間中心の考え方の下,お客さまに喜んでいただけるクルマ造りにワイパーを通して貢献していくつもりである。 最後に,(株)ミツバ様には開発にあたって多大な協力をいただき心から感謝を申し上げる。 近藤 啓介 青木 茂 マツダ技報 No.36(2019) 山内 一平 伊藤 孝治

元のページ  ../index.html#157

このブックを見る