マツダ技報 2019 No.36
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-155- 2.2 暗黙知の形式知への変換 クラフツマンシップの暗黙知を,関係者が共通理解で 2.1 心のフロントローディングと統合的量準プロセス 大量生産に関わる多くの部門とお取引先様が,同一の2. マス・クラフツマンシップ Fig. 2 Mass Craftsmanship Table1 Comparison of Mass Craftsmanship 2.3 低コスト/低投資の高精度材料と精密加工技術 クラフツマンシップの物理特性と加工特性の目標を大・形式知:図表・数値などで説明できる知識 止を主目的とした“生産性のフロントローディング”に,モノ造りの価値の織り込みを主目的としたクラフツマンシップの“心のフロントローディング”も加えることで, デザイナーや設計者の意図とモノ造りの意味的価値の統合,機能開発の課題に対する生産面からのサポート,材料や部品メーカー様との共創活動や共同技術開発などを,一貫したモノ造りの想いで推進する量産準備プロセスに変革する。 きる形式知へ変換することが要件となる。そのために,デザイン領域では,工場や生産技術の技術者がデザイナーと直接対話をして,造形やカラーで表現したい感性を理解した上で,人間工学に基づいて可能な限り物理特性へ変換し,製品価値の目標を共有する。また,感性を具現化する匠や職人の手仕事を,科学的な解析に基づいて加工特性へ変換し,加工技術の開発目標を定める。ただし,これらの目標を共有して活動する上では,数値では暗黙知を完全に表現できないため,クラフツマンシップの暗黙知に立ち戻った価値判断を優先することを関係者で共通認識が必要である。 (注)・暗黙知:簡単に説明できない知識 量生産で実現するためには,お客様にとっての価格対価値と,経営視点での費用対効果の両方を考慮したアフォーダブルコストでの製造技術が必須である。そのために,品質工学の概念を適用し,物質と加工の基本機能を定めた上で,そのSN比と感度を上げるための技術開発を行う。例えば,車体組立での多車種混流生産における設備・治具の極小化,アクアテック塗装(2)での工程短縮&統合などでは,基本機能を向上させた高精度材料や精密加工技術の開発によって,資源効率とエネルギー効率を向上させ,低コスト/低投資の生産システムを実現した。 マツダ技報 No.36(2019) 生産技術では,一般的に基準化されたQCDを中心とする目標を達成する生産システムを追求する。マツダは,「物を造る企業としての本業の強み」を生かし,機能的価値の高効率な造り込みに,モノ造りの意味的価値を加える新たな生産システムを構築して,クルマを所有する喜びを感じていただけるマツダプレミアムを適正な価格でお客様にお届けすることを目指している。 モノ造りの意味的価値は,クラフツマンシップを持つ匠や職人,複雑な工程や技術より,こだわりの手仕事で感じる感動やプレミアム性をモノに造り込むことと考えている。従来の大量生産は,技術で機械やロボットを使って,高精度で均一な製品を短時間・低コストで生産できるが,それだけではプレミアム性を感じていただくことは困難である。従って,ビジネス効率E=V/Cの最大化をしながら顧客価値を創出するためには,クラフツマンシップとマスプロダクションの良い所取りをし,手仕事と技術を融合して職人技を量産化する生産システムの構築が必須である。この生産システムについての概念を,マス・クラフツマンシップ(1)と定義した(Fig. 2)。 マス・クラフツマンシップを実現するには,従来の分業効率を重視した,デザインから生産までセグメント化された役割分担と責任分担の下で図面や基準を受け渡すことを基本とする仕事のやり方では不可能である。数値では表すことができない,デザイナーや匠が持つイメージやノウハウを,大量生産に関わる関係者全員が認識できる形に変換した上で,提供価値の共通目標に向けて協働する仕事のやり方に変える必要がある(Table 1)。 この実現には,発想の転換をベースとし,業務プロセスと技術の両方についての統合的な取り組みが必要であり,キーイネーブラーは以下の3つと考える。 提供価値の実現を目指す協働活動を進めるためには,統合的なプロセスアプローチによって,モノ造りの想いをデザインから生産までを貫く業務プロセスへの転換が必要である。そのためには,従来のコスト削減や手戻り防

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