・Precision ・Time -166- 2. 技能伝承の目指す姿と課題 3. 技能の見える化 4. 技能階級の定義 <Previous> 20years Takumi 15years Upper 10years Pre-upper 7years Intermediate 3years Beginner <Target> Takumi 10years 7years Upper Pre-upper 3years Intermediate Beginner Measurement result Judgment Musculoskeletal exercise Fig. 2 Skill Measurement System Sight Judgment Movement Movement analysis Eye movement Skill movement ① 技能の見える化(定量化) ② 技能階級の定義(目標,実力把握) ③ 技能のメカニズム解明 ④ 技能指導の定量化 Fig. 1 Target of Skill Tradition の技能の定量化から始めた。 モノ造りにおいて「技能」は,「人の動き」となって表現される。その「人の動き」を定量化するには,外見として表れる身体動作と,その基となる判断や身体内部の筋骨格の情報までも可視化していくことが重要であると考えた。そこで,技能者が判断し動作を行う一連の行動情報となる,眼球運動,身体動作と筋活動量の計測・推定を行い,更にグラインダー作業の結果である被削材寸法精度と併せて分析・評価・指導ができる技能計測システムを開発した(Fig. 2)。 眼球運動は,視線計測器を用いて技能者の注視点座標を計測可能とした。また,身体の動作情報は,カメラ8台で構成された光学式モーションキャプチャーを採用し,カーの三次元座標を計測可能とした。反射体となるマーカーは技能者の身体に41個,グラインダーに3個取り付けた。更に,左右の足元と作業台の3箇所にフォースプレートを設置し,床面反力を計測可能とした。また,作業中の筋活動量は,モーションキャプチャーで計測した関節角度などの身体動作情報と,フォースプレートで計測した身体に作用する外力情報を基に,筋骨格モデリングシミュレーションを用いて推定を可能にした。被削材寸法精度は,3D形状測定機にて計測した。このような膨大な行動情報と被削材寸法精度の情報を基に分析することで評価・指導につなげる。 技能計測システムの結果から,匠技の分析をする必要がある。そこで,技能レベルが最も高い匠級の技能者を基に匠技の分析をすることにした。しかし,3章で述べた本稿では,金型製作における技能者の仕上げ動作を計測し,匠技の見える化と技能構築の重要因子解析,更に,技能カルテを用いた技能者の早期育成に取り組んだ事例について紹介する。 金型製作における技能育成は,通常,グラインダー作業,溶接などの基礎技能教育や安全作業の手順指導は行うが,匠技は,明文化することが難しい。そのため,これまでは熟練技能者の動きや判断を見ながら,技能者自身が失敗を重ねながら体感,習得していく経験学習が主流であった。進化し続ける「魂動デザイン」を最高の効率で実現するためには,従来の経験学習ベースの技能伝承から,自己の技能を定量的に認知して育成ポイントを明確にし,短期かつ達成感のある技能伝承に変革する必要がある。以下4項目を重点課題として取り組んできたので詳細に述べていく。 現在,マツダの金型製作部門では,技能伝承・育成期間に応じた5階級(初級,中級,準上級,上級,匠級)に区分した技能階級を設定している。技能育成の目標は,各階級への到達期間を半減,つまり,初級から匠級になるために,従来20年を要していた期間を10年にすることを目指している(Fig. 1)。 技能育成の早期化に向けては,技能を定量化し,技能者自身が達成目標レベルと技能向上課題を定量的に認知でき,同時に,技能者自身が成長を実感し自信と誇りを持って自己研鑽することで,働きがいのある職場造りにもつながる仕組みの開発が必要と考えた。金型製作には高度な技能を必要とする作業がある。その中でも,最終的に「魂動デザイン」を造り上げる磨き作業の基礎であるグラインダーによる研削作業(以下グラインダー作業)4m×4m×2mの範囲における身体に取り付けた複数マーマツダ技報 No.36(2019)
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