マツダ技報 2019 No.36
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Fig. 5 Process Innovation for High Tensile Steel Sheet -194- スプリングバックを起こす要因は2つあり,一つは部品 2.4 寸法精度の課題解決の取り組み(FピラーIN) FピラーINもHピラーRFと同様に旧アクセラに比べ,Fig. 6 Example of Spring-Back Suppression 旧アクセラの590MPa級から一気に1310MPa級へと高張力化が進んだ。これにより,従来工法の絞り工程→リスト工程では成形が成り立たないことを成形シミュレーションによる事前検証で確認した(Fig. 4)。 従来工法の初工程は絞り成形で大半の製品形状を成形し,次工程のリスト成形は残った細かな形状部分の成形を行う工程方案である。絞り成形は材料外周を強く拘束するためしわ抑制には有利であるが,それがゆえに延性の低い高張力鋼板では割れが発生する。そこで,1310MPa材においては初工程で材料外周を拘束しないフォーム成形とし,初期のしわ発生が多い平面視上部は先行的にパッドで押さえ込む工法を採用した。しかしながらそれだけでは,縦壁やフランジ部位にしわが発生するため初工程の予成形量や成形形状を適正化することで成立させた。一方,次工程のリスト成形では,初工程の予成形量が減ったことによる成形量増加と高張力化の影響で再びしわが発生した。これには,従来のプレス方向からの成形ではなく,しわを分散させやすい成形方向を導き出し,カム成形とすることで解決した。また,縁割れに関しては,材料端部に局所的にひずみが集中することで発生するため,材料端形状を扇状にすることで縁割れ懸念個所のひずみが均一になるよう工夫した。 これら一連の成形性向上策は工法のみならず,高精度な成形シミュレーションを活用し各工程が成立する成形バランスを緻密に導き出すことで達成した。 板厚も1.8mm→1.4mmへと薄板化したことでボディーの高強度化と軽量化の両立に成功した。この性能の両立はプレス部品からすると,特に剛性の低いFピラーINでは,薄板化でさらに剛性が低下し高張力化による成形後の内部応力増加の影響を受け,スプリングバック量の増加が顕著で寸法精度面の難易度が高くなる。また,寸法精度は図面寸法そのものが狙いであるが,スプリングバック量が大きくな2.3 成形性の課題解決の取り組み(HピラーRF) 先に述べたようにHピラーRFは難成形部品でありながら,Fig. 4 Establish Forming Technology to Address 1310MPa Material 590MPa級→1310MPa級へ大幅な高張力化を進めた。更にるにつれ,素材からプレス成形までの製造バラツキも無視できないものになる。そこで,スプリングバックそのものを抑制する形状凍結性を重視したプロセスに変革することを目指した(Fig. 5)。 剛性,もう一つは成形時に発生する内部応力の不均一である。部品剛性は通常,車両性能面から決まるが,今回のFピラーINにおいては,車種開発の初期段階からボディー開発部門と共創することで性能と生産性を両立した部品形状を目指した。また内部応力の不均一についても,成形シミュレーションを活用し発生する応力不均一を見極めバランスさせるプレス方案や製品形状を開発した。その一例をFig. 6に示す。フロントウインドウの取付け部は弓型になっており,プレス成形時に材料が縮むことで圧縮応力が発生する。そのため弾性回復時に部品の両端が跳ね上がるキャンバーバックが起こる。そこで,あらかじめ縮み量を見越した座面を製品形状とすることでプレス成形後の圧縮応力を抑制できる。前述の共創活動の中で車両性能上も問題ないことを確認し採用した。 マツダ技報 No.36(2019)

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