マツダ技報 2019 No.36
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-195- (3)上刃刃先の塑性変形問題解決への取り組み 2.5 せん断加工性の課題解決の取り組み (1)せん断加工の過程 Fig. 7 Process of Shear Molding (2)1310MPa材のせん断加工実現のための課題 1310MPaの高張力鋼板では,せん断加工後に,Fig. 8のFig. 8 Image and Photo of Upper Cutting Edge eformation Fig. 9 Image of Chip Occurrence Fig. 10 Stress on Upper Cutting Edge 1310MPa材のせん断加工を実現する上での課題は,せん1) 上刃刃先の塑性変形メカニズムの解明 P =K・L・t・ B (1) K:係数 この塑性変形が進行し亀裂が生じると,せん断加工後に上刃が上昇する際,Fig. 9のように,①塑性変形により上刃が飛び出た部分に鋼板が引っ掛かり,②上刃の亀裂部から欠けが発生する。この欠けが発生すると,上下刃間のクリアランスが広がり,カエリ高さの増加となる。そのため,断加工時の上刃刃先の塑性変形問題を解決することである。 はじめに,上刃刃先の塑性変形問題の解決に向け,高張力鋼板をせん断加工した際に刃先に発生する塑性変形のメカニズムの解明に取り組んだ。 上刃刃先の塑性変形は刃先にかかる応力が,降伏点を超えることで発生し,更に応力が高くなることで塑性変形量が大きくなる。この刃先にかかる応力は,Fig. 10のように上刃にかかるせん断荷重と上刃と鋼板の接触面積により決まるため,このせん断荷重と接触面積の2つの視点で上刃刃先の塑性変形の原因追究を行った。 まず,上刃刃先の塑性変形が起こる原因として,せん断荷重に着目した。せん断荷重P[N]は,せん断部の長さL[mm],板厚t[mm],引っ張り強さ B [MPa]としたとき,式(1)によって求められる。 マツダ技報 No.36(2019) せん断加工はFig. 7の①~④の過程で加工される。まず,①下刃に置かれた鋼板が板押えで押えられた状態で上刃が下降し,だれが形成される。次に,②上刃下降に伴いせん断面が形成される。そして,③上下刃の刃先付近から亀裂が生じる。最後に,④この亀裂が進展することにより,破断面が形成され,加工が完了する。このせん断加工の過程で,上下刃間のクリアランスによってはカエリが発生する。このカエリの高さは,上下刃間のクリアランスが数十ミクロン変わるだけで増減する。増加するとプレス成形時の割れや接合時の部品間に隙間が発生するため,成形性・溶接性などに悪影響を及ぼす。 ように,上刃刃先に塑性変形による損傷が見られた。

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