マツダ技報 2019 No.36
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↓ ↓ 270MPa 1180MPa 1310MPa -197- 3.3 生産管理の課題と取り組み 実際の部品に対する溶接では,特定の打点で部品形状及 2.4で紹介した通り,プレス部品の寸法精度は高張力化が 3.2 生産工程の課題と取り組み 実際の生産工程ではスポット溶接を高速(1点あたり1秒)3. 抵抗スポット溶接の課題と取り組み 4. ボディーの精度保証 Welding Current (kA) Satisfied strength Poor appearance 3.1 抵抗スポット溶接の原理 車体組み立て工程では主な接合法として抵抗スポット溶Fig.15 Effect of Tensile Strength of Base Steel on Suitable Welding Current Range ト溶接ガン内蔵の溶接トランスの定格容量UP,インバータ整流器のダイオードスタック容量UPにより,耐熱性を向上した。更に冷却水経路の見直しにより放熱効率も向上している。この設備を生産工程に導入し,高速で安定して接合を行える量産ラインを構築した。 び加工位置の微小な差により溶接時のスパッタが発生してしまう場合がある。3D計測機の活用により部品に対する加工位置の適正化を実施しているが,最終的にスパッタ撲滅を達成するには1点1点に対する加工条件の緻密な調整が不可欠である。クルマ一台当たりの溶接打点数は数千点にも及ぶため,ヒトによる管理には限界がある。そこで溶接ガン先端部の状況を定量データで可視化するシステムを導入し,設備のネットワーク経由で生産中のデータを自動収集/判定する仕組みを導入した。これらのシステムを活用することで,量産移行前に加工パラメータが適正であることをデータで確認し,1点1点の溶接加工の最適化を短い量産準備期間の中で達成した。 また,溶接検査工程において,従来行ってきたタガネを挿し込む検査方法ではクルマに微小な傷が残る可能性があるため,傷のつかない磁気タイプの非破壊検査装置を導入した。これらの検査データもネットワーク経由で収集し,異常を検出する精度/感度を高めている。 以上の取り組みにより,これらの打点の1点1点の加工を鋼板の組み合わせに応じて最適化することで,お客様にお渡しするクルマの安全性を保証している。 ボディー精度は複数のプレス部品を接合し,多数の車体組立工程を経て精度を保証する。ボディー精度を保証するために,位置決め,拘束,接合,解放という実ラインのプロセスを机上検証し,車体でボディー精度をコントロールする条件を車体組立ての各工程へ織り込んだ。位置決めと,拘束と解放の事例を中心に紹介する。 進むにつれて,成形後の内部応力影響を受け,弾性変形の増加によって寸法精度保証の難易度が高くなる。ボディー精度はプレス部品同士を接合するときの隙間や部品同士の干渉の影響を受けやすく,接合面精度を保証するうえで大切な条件の一つである。そこで,弾性変形後のプレス精度の早期向上と精度の安定化,ボディー精度保証を早期にかつ経済的に行うため加工基準の使い方を1310MPa材で見直した。加工基準とは,図面で決められた空間上の位置に部品を固定し,接合による変形をコントロールしながらマツダ技報 4.1 位置決めの取り組み No.36(2019) 以上のように,本章ではプレス成形性,寸法精度及びせん断加工性の課題に対しさまざまな取り組みを行い,衝突安全性と操縦安定性を両立したプレス部品の造りこみに成功した。これは高精度なシミュレーションを活用し,開発部門と生産技術部門の共創活動の中でボディー性能と生産性を追求することで実現した。 接を使用している。この接合法では,銅電極を用いてプレス成形部品を挟み,電流による抵抗発熱を利用して溶融部を形成する。一般的に高強度の材料ほど固有抵抗値が高いため発熱しやすくなり,材料硬度に起因する接触抵抗の影響を受けやすくなるため,材料特性に応じて適切に加工条件を設定する必要がある。Fig. 15は材料強度による加工条件の違いを図示したものである。材料単体の比較では,外板等に使う270MPa材と本稿の1310MPa材では加工条件のレンジが異なる。そのため,270MPa材と1310MPa材を組み合わせて溶接する場合,重なり合う加工条件のレンジが狭く,強度を保証しようとするとスパッタが発生しやすいという問題がある。このスパッタは外板面にダメージを与えることから,魂動デザイン再現のためにはスパッタが出ないスポット溶接の実現が必須である。事前検証では高張力鋼板に対する有効な加工条件パターンを検討した。実験的に材料による条件レンジを吸収するため,電極で挟む力による通電面積の制御と,溶接電流の多段階制御による溶融状態の制御により,溶融部を安定して形成できる加工条件を実現した。 で行う。一方で高張力鋼板向けに導出した加工条件は従来比で高い溶接電流と長い溶接時間となるため,高速で加工すると溶接機自体の放熱が間に合わず熱による故障が発生する。そのため,前述の加工条件を実現できる溶接機器仕様を決定し量産設備として導入している。具体的にはスポッ

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