マツダ技報 2019 No.36
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-204- 5.3 補正動作追従精度 ドアを搬送するのに必要な可搬重量を満足するロボッFig. 7 Behavior of Hinge in Twice Tightening ー前後方向と上下方向に補正する。回転補正としてはボディー横方向軸周りの補正となる。 上下方向軸周りの回転補正は行なわない。これはドア自体がヒンジを起点にボディー上下方向軸周りで回転するためその調整が不要なためである。例え補正したとして,その回転補正量を決定するためのヒンジ取り付け面の傾きを求めるにはボディー前後方向の計測ピッチが必要なのだが,ヒンジ面のボディー前後方向の長さはドアに比べて短くそれを測定補正しても誤差の増幅を招いてしまう。そもそも締め付け前のヒンジ面とヒンジ取り付け面が完全に密着することはなく安定もしない。そこは別の対策が必要となる。 を緩めてから補正して再度締め付けるまでの間,ヒンジの位置関係が変わらないようにそれを上下からクランプして把持し続けることとした。「ばらつき発生要因」で述べたとおり,ヒンジ面法線方向の精度はドア先端側に増幅して伝搬されるため,本来は数字の桁がひとつ下の高い精度管理が要求され,そもそも精度保証のネックであった。そのヒンジ精度がドア把持方法を従来と変わらない管理精度のクランプに変更することで保証できるようになる理由を以下に説明する(Fig. 7)。 ボルト締付装置の軸力はクランプ力と比較すると桁違いの巨大な力である。初回加工時は,その巨大な軸力によって,ヒンジとボディーのヒンジ取り付け面の間の隙がなくなり密着する。その時,板厚が厚く剛性のあるボディー側にドアごとドアヒンジが引き寄せられる。マテハンも当初クランプごとヒンジに引き寄せられ,たわみが発生する。しかし,ボルトが締まっていく過程で徐々にたわみの反発力が大きくなり,クランプとヒンジの間の摩擦力を越え,滑りを発生する。滑りにより,たわみの反発力が弱まり,再び摩擦力とバランスする位置で滑りが止まり,ふたたびたわむ。 5.2.2 ドア把持方法の変更 本システムでは,ドアヒンジをクランプして,ボルトこのクランプが安定する位置は,クランプとヒンジのわずかな噛み合わせ状態の違いでも変わるため,誤差因子となっている。しかし,同一部品で一度加工したのち開放することなく圧をかけたままクランプし続けることにより,2回目以降加工時いったん安定したその位置関係は変化しない。また,ボディー側の剛性が高く何度加工してもヒンジがボディーに沿うことによりヒンジ面法線方向の位置再現性も高い。そのことから,マテハンのたわみもその反発力も同じ状態で繰り返されるため2回目以降は滑りが発生せず,この再現性は高く維持することができるのである。 トの位置再現精度のカタログ値は蓋物組付「折合調整の自動化」に必要な精度を満足してはいない。ただし,このカタログに謳われている精度の中には,「どの経路を通っても」「定格範囲内のどの負荷でも」という条件が含まれている。「一定の経路,一定の負荷」という限定的な条件下ではロボットの精度能力は更に高めることができる。補正に使用する動作範囲は限定された約1立方mm程度の狭い範囲であり,その中で発生する機械的ずれは法則化が容易である。 補正動作に使用する実用動作範囲内のロボットの動作指示値と実働値のずれ量を実測した(Fig. 8)。ロボットのギヤが正転から逆転に転じるときはどうしても機械的なバックラッシュが発生する。そのため,逆転方向の動きはじめでは無動作の区間が発生してしまう。そのずれは無視できない量であったが,再現性は高かった。 そこで,本システムではそのずれ量をキャリブレーションする方法を確立し,マツダが独自開発した上記の補正ロジックに織り込み,キャンセルさせた。それにより目標とする補正動作追従精度を満足することができた。 マツダ技報 No.36(2019)

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