マツダ技報 2019 No.36
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-230- Fig. 3に示すように,人間は前方向に倒れそうになると2. 評価対象の選定 Fig. 2 Change of Exercise Action Plan Fig. 3 Human Posture Change の付加価値が市場を獲得する大きな要素となっている。この中で,使い手に達成感や高揚感を提供することを目的とする人間中心開発は大きな付加価値になると考える。人間中心開発の具体化にあたり,人間がどのようなシーンでどのように動こうとしているのかを明らかにする技術と,表面的な動作と内面的な意図や心理状態そして人間の感覚機能に入力される物理量の元になる設計諸元との因果関係を解いて人間の動きを支援する設計諸元を導出できる技術が必要であると考えた。 本稿では,人間がどのようなシーンでどのように動こうとしているのかを明らかにする試みを行った結果を報告する。まず,評価対象の選定と評価方法に対する考え方について述べる。次に適用事例を示す。 を積み込む等から始まる出発地点から目的地点までの間に行う一連の動作は多種多様であり,基礎研究の段階からこれら全てを研究対象にすることは合理性に欠ける。 そこで,人間の本質が顕在化される無意識運動つまり記憶した運動行動計画プロファイルをトレースする動作であること。行動開始から0.5秒後に行われるとされる運動行動計画プロファイルの修正要否を判断するフィードバック情報及び人間挙動のメリハリがしっかりしていること。これらを評価対象の選定条件とし整理した模式図をFig. 1に示す。操作量を観測すれば運動行動計画プロファイルの修正要否の判断状況が推察できる。人間挙動を観測すれば運動行動計画プロファイルの修正要否の判断に至る要因系を推察できる。 既知の知見として,信号が赤から青に変わるもしくは前2.1 選定条件 お客様が,車両に近づきドアを開けて乗車もしくは荷物Fig. 1 Human Behavior の車両が動き始めると,ブレーキからアクセルに踏みかえるが,アクセルの踏み込み量は無意識であり車両が動き始めた後に,足りなければ踏み足し多ければ踏み込み量を減らしている。ハンドルも同様で,初期舵角は無意識であり車両が曲がり始めた後に,足りなければ切り足し多ければ舵角を緩めている。Fig. 2に示すこれらの人間特性は誰もが知り共感できるため,人間の本質を明らかにする今回の試みに適している。 後方へ重心を移動しようとし,右方向に倒れそうになると左方向へ重心を移動しようとする。その際に立っていると足で踏ん張り,座っていると足と腰で踏ん張っている。これも一般的に知られている動物の本能であり,動かす部分と踏ん張る部分の役割分担をした全身運動である。人間がどのようなシーンでどのように動こうとしているのかを明らかにすることは,人間が動物として普遍的に備えている機能の本質を明らかにする本研究の目的である。そこで,車両から,前後,左右,上下方向への加速度を受けながら直進加速や旋回といった運転操作を行う人間の挙動を評価対象とした。 マツダ技報 No.36(2019)

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