マツダ技報 2019 No.36
242/321

-233- 4.4 旋回と脊髄の関節角度 30km/h一定速度にて連続的に右旋回から左旋回を行っ後15.0秒まで拡大した。Fig. 10は,右旋回開始1.0秒前をFig. 10 Joint Angle of Lateral Direction of Spine Fig. 9 Relationship between Right Hip and Right Ankle 4.3 直進加速と右股関節の角度 Fig. 8に示す。「普通」と言われるシート仕様1は,加速Fig. 8 Relationship between Time and Right Hip た。旋回にあたりハンドルを操作するために必然的に動かざるを得ない上腕以外に顕著な挙動を示した脊椎に着目し観察を行った。当初の計画では,操作を開始する0.5秒前から操作開始後1.0秒までを評価対象としていたが,直進加速と同様に操作を開始する0.5秒前には既に横Gに備えた予備運動を開始し,旋回を終え横Gが抜ける操作開始から後15.0秒後には脊椎の関節角度が,ほぼ定常走行中の状態に復帰していることが確認されたため,全体像を把握することを目的に評価範囲を旋回開始1.0秒前から旋回開始基準とし脊椎の左右方向の関節角度の時刻歴変化を示す。シートの仕様に関わらず,操舵開始0.5秒前には同方向かつ同程度に腰椎を動かしている。被験者に確認したところ無意識であったことから,横Gに備えた予備運動であると推察した。その一方で,右旋回を終え舵角がゼロになった瞬間の腰椎に着目するとシート仕様1は腰仙関節角度が大きくなり直進安定域に入っても残っている。被験者に確認したところシート仕様1は旋回すると着座位置が動き座り直しを要すが,シート仕様2は旋回しても着座位置が動かず座り直し不要とのことから,旋回後の座り直しは覚醒運動であり労力も伴うため,煩わしさが顕著に感じられるためと推察した。 マツダ技報 No.36(2019) アクセルペダルを踏み込むために人間はどのように動く必要があるのかを考えた場合,着座及び踵を支点に足首に回転運動をさせる前提では,右股関節を動かすことが最も合理的となる骨格に着目した。前項に示した1.5秒間の右足首角度の変化量と同条件にて右股関節角度の変化量を開始0.5秒以降の右股関節角度が振幅運動しており最小二乗誤差(以下R2)も約0.6であり線形性が損なわれている。 「良い」と言われるシート仕様2は,加速開始0.5秒以降も右股関節角度が一定の傾きでありR2も約0.9であり線形性が保たれている。これらを考察すると,シート仕様1は描いたイメージどおりに動けていないと脳が判断し補正が入り,シート仕様2は描いたイメージどおりに動けていると脳が判断し計画を続行したと考えられる。 右股関節角度と右足首角度の関係を見ると,シート仕様1よりもシート仕様2の方が2倍近いR2の値つまり高い加法性を示しており体の中心から足先に向けた運動のリレーが安定して行われていることを示している。意のままに車両を扱うためには,人間自身が意のままに動ける必要がある。

元のページ  ../index.html#242

このブックを見る