マツダ技報 2019 No.36
269/321

2)状況・対処の理解 2.1 情報伝達シーンにおける聴覚刺激の機能 人間の認知プロセスにおける五感の割合は視覚が約8割,Ⅰ. 即座に気づかせる Ⅲ. 意識を向けるべき方向に誘導する Ⅳ. 受付状況が不確かなケースでサポートする 1)知覚の速さ (1) 安全性にリスクがあるシーン -260- 3つの観点で検討し「音で気づき,表示で状況・対処方法(1気圧・湿度0%・気温15℃)であるため,知覚の速さ2. 聴覚刺激の機能と制御因子 Fig. 1 Operation Associated from Sound Ⅱ. 緊急性の高低を伝える 果がある。 以上より,確実に即座に気づかせる機能を聴覚にもたせる認知の機能配分とした。 従来車では,聴覚刺激を付加すべきシーンについて明確な考えがなかったが,新型MAZDA3では上記に基づいた設計指針を新たに設定した。 ドライバーに伝えたい情報は「(どこで)何が発生し,どう対処すればよいか」である。聴覚刺激だけでどこまでの情報を理解できるかを検証するため,ブレーキ・ハ ンドル・スイッチ操作を想定させる試験音源を操作ごとに数種類ずつ製作し,各音が3択のどの操作を示すか回答してもらう実験を行った(1)。なお,本研究で行った全ての被験者実験は,試験開始前にインフォームドコンセントを得て行っている。結果をFig. 1に示す。これは各操作の選択割合が最も高かった試験音源の結果のみグラフ化したものである。 ブレーキとスイッチ操作を連想させることをねらった試験音源については選択割合が60%を超え,ねらいどおりの操作をイメージした被験者が多かったが,ハンドル操作を連想させる試験音源は選択割合が50%に満たず,ブレーキ操作をイメージして選択した割合も多い結果となった。これをどう解釈すべきか判断するために,回答に至った思考プロセスを被験者に聞き取り調査した。その結果,いずれの操作も音のイメージが直接操作に結びついたのではなく,各操作が必要なシーンでの緊急性のイメージと音から感じる緊急性の高低を結びつけた,という回答が多かった。 本実験は3択のため,この思考プロセスでもブレーキやスイッチ操作は正解が多かったが,クルマには多くのシステム・機能が存在し,安全性にリスクがあるシーンでの伝達情報は100種類を超える中で,これら全ての状況や対処方法をこの思考プロセスにより聴覚刺激だけで正確に理解するのは極めて困難であると判断した。 以上より,状況・対処を伝える機能は視覚に,音から直観的に理解できる緊急性の高低を伝える機能は聴覚に現を目指した。本稿では,認知インターフェースの1つである情報伝達音開発の取り組みを報告する。 情報伝達音とは,衝突の危険性やシステムの機能低下などの安全性にリスクのあるシーンでメーターやヘッドアップディスプレーのワーニング表示と連動して注意を促す音と,スイッチなどにより車両の機能を操作するシーンで受付状況を伝える音が対象である。 人間の認知プロセスにおいて不必要な注意資源を費やさない状態を実現するために,各シーンでの聴覚刺激の機能を再検討し,音に付加する情報の最適化と,その機能を有効に果たす制御因子を特定し,それをコントロールした音創りについて以下に述べる。 聴覚が約1割,触覚がそれ以下と言われているが,クルマの運転環境下での情報伝達シーンにおける認知の機能配分を検討し,聴覚刺激の機能は以下の4つと定義した。 安全性にリスクがあるシーンで注意を促す音の機能はⅠ~Ⅲ,車両の機能を操作シーンで受付状況を伝える音の機能はⅣである。 このシーンでは,視覚と聴覚刺激の優位性を以下に示すを理解する」という認知の機能配分とした。 物理的には光速は秒速30万km,音速は秒速340mとしては視覚の方が遥かに優位である。ただ,クルマの運転環境下では視覚で周囲のクルマや歩行者などの動きを常に確認しながら走行しており,車外に意識が向いている状況が多い。このように他に意識が向いている状況下では視覚は能動的な刺激であるため,表示デバイスにワーニングを表示しても気づくタイミングが遅れてしまうケースがある。一方,聴覚は受動的な(無意識下の)刺激であるため,他に意識が向いている状況下でも即座に気づくことができる。衝突の危険性やドライバーの誤操作などその瞬間に気づいてもらう必要のある情報や走行に関わる失陥などの緊急対応が必要な情報を伝えるシーンでは,聴覚刺激を付加することで知覚を早める効マツダ技報 No.36(2019)

元のページ  ../index.html#269

このブックを見る