マツダ技報 2019 No.36
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3)方向の特定 Ⅰ. 即座に気づかせる: -261- 2つ目は聴覚刺激を伝達手段とすることで運転中の操作 2.2 聴覚刺激の機能を果たす制御因子と音仕様 2.1で述べたⅠ~Ⅳの機能ごとに,その機能を有効に果た型MAZDA3の1番の進化ポイントである「Ⅱ. 緊急性の高MAZDA3では,この機能配分を見直した。 (2) 車両の機能を操作するシーン Ⅱ. 緊急性の高低を伝える: Ⅲ. 意識を向けるべき方向に誘導する: Ⅳ. 受付状況が不確かなケースでサポートする: (1) 安全性にリスクがあるシーンで注意を促す音 音の立ち上がり特性・S/N比(信号対雑音比) 音の種類数・倍音構造とスペクトル重心の違い 周波数・両耳の音圧差と時間差 音の長さ・発音周期・音階や音圧変化(メンタルモデルの活用) 報は,短操作タイプのスイッチであれば操作時のクリック感(触覚)でクルマの受付タイミングを理解できるという解釈である。ただ,以下のように例外となるケースもある。 まず,受付のタイミングの理解が不確かなケースは,音声認識のように触覚フィードバックがない操作や,長操作タイプのスイッチのように受付が確定するまで押下し続ける必要がある操作シーンである。次に,状態変化の理解が不確かなケースは,何らかの理由により意図した状態に変化しない,つまり受付が拒否されるシーンである。 このような受付状況の理解が不確かとなるケースでは,視覚や聴覚で認知をサポートする必要があると判断した。伝達機能は以下の2点を理由に聴覚刺激にもたせることとした。理由の1つ目は従来からの検証により家電などの生活環境の中で形成されたメンタルモデルを活用した音創りにより,視覚情報がなくとも聴覚刺激から直接的に受付・拒否・終了などの事象を特定できることである。における「見るわき見」のリスクが減ることである。 以上より,車両の機能を操作するシーンではクルマの受付状況の理解が不確かなケースのみ,事象を伝える機能を聴覚刺激にもたせる認知の機能配分とした。 す制御因子を人間特性に基づいて特定し,音創りや発音体のレイアウトや発音制御といった設計仕様に落とし込む活動を行った。各機能の制御因子は以下と結論づけた。 安全性にリスクがあるシーンで注意を促す音 車両の機能を操作するシーンで受付状況を伝える音 このシーンでの聴覚刺激の機能であるⅠ~Ⅲのうち,新低を伝える」の制御因子について検討内容を報告する。 従来車はブザーを発音体としており,その構造から制御できる音特性は限られていた。単一周波数音を前提に,周波数は1.5kHz・1.8kHz・2kHz・2.8kHzのいずれか,音のマツダ技報 No.36(2019) もたせる認知の機能配分とした。 従来車の情報伝達音も緊急性を伝える機能はもたせているが,それだけではなく状況を伝える機能もねらいシステム・機能ごとに違う音を割り当てている。その結果,音の種類数が増加の一途をたどっていた。新型人間は生活の中で無意識に周囲の音をモニターし,その変化から状況を把握している。また,異常を感じる音が聞こえると,反射的に音が聞こえる方向を確認する行動特性をもっている。この特性を踏まえて,車両後方の衝突危険を伝えるシーンでの情報手段として聴覚と視覚を比較検討すると,まず車両後方から聴覚で伝えた場合,知覚と同時に方向を特定→バックミラーや直視で後方確認し状況を理解,という認知プロセスとなる。一方,視覚の場合は車両後方に視覚情報を呈示しても視野角外は気づかないケースがあるため,車両前方の表示デバイスで伝える場合を想定すると,表示点灯を知覚→二次元の情報を三次元に置き換え方向を特定→バックミラーや直視で後方確認し状況を理解,という認知プロセスとなる。車両後方の特定は視覚よりも聴覚刺激の方が早く,認知プロセスにおける情報処理負荷が少ないという研究結果もある(2)。 人間の音方向知覚の弁別限は,周波数や到来方向によって差はあるが5~25°と言われており(3),この精度で瞬時に音の到来方向を特定できる。ただ,車室内特有の音場環境では,窓ガラスの反射などにより車両の前後方向は直観的に特定できるが,左右方向や前後方向でも更に細かい角度は特定し難いことが自他銘柄車の官能評価実績から判っている。 以上より,「どこで何が発生しているか」の伝達情報のうち方向を伝える機能は聴覚にもたせる認知の機能配分とした。具体的には,車両後方に意識を向けるべきシーンでは車両後方から音が聞こえる状態とし,それ以外のシーンでは状況・対処方法を理解できる表示デバイスがある正面方向から音が聞こえる状態とした。 このシーンでは,視覚と聴覚,触覚の優位性を以下に示す観点で検討し「基本は触覚で受付タイミングを理解する。受付タイミングや状態変化が不確かなケースは聴覚で理解する」という認知の機能配分とした。 このシーンは安全性にリスクがあるシーンで注意を促す音とは異なり,スイッチ操作など自らの意図した行動が情報伝達のトリガになるため「何がいつ,どう変化するか」の情報は基本的に理解できている。「いつ」の情

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