マツダ技報 2019 No.36
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1)音の種類数 2)倍音構造とスペクトル重心の違い 3に示すように基音(f)に対する倍音成分の周波数(2f-262- 以上,新型MAZDA3の注意を促す音は,音の種類数の適Fig. 4 Important Matter of Spectrum Center of Gravity (2) 車両の機能操作シーンで受付状況を伝える音 Xg:Spectrum Center of Gravity f :Frequency t : Frame Number Y : Amplitude Value Fig. 3 Overtone Structure 長さや発音周期(ピピピ,ピピッピピッ,ピーピーピーなど)は自由に設定でき,これらの組み合わせで緊急性の高低を表現していた。しかし,2.1 (1) 2)で述べたようにシステム・機能ごとに違う音を割り当てる考えから音の種類数の違いが分かるが,走行中の複合タスク下では違いが分かり難く,総じて高周波の類似した音に聞こえる傾向にあった。 新型MAZDA3の進化として,音の違いを区別しやすく,緊急性の高低が分かり易い音創りを目指し,制御因子を以下の2つに特定し,音創りの設計仕様を具体化した。 人間が無意識に区別できる音の種類数は3~4音といわれている。新型MAZDA3の注意を促す音は,緊急性を合計4種類の音設定とした。 従来車のシステム・機能ごとに違う音を割り当てる考えはなくし,全てをこの4種類に割り当てる考えとした。 音の違いを区別しやすく,緊急性の高低が分かり易い音創りの制御因子は,倍音構造とスペクトル重心である。これらに違いをもたせることがポイントとなる。 まず,音の違いを区別しやすい制御因子である倍音構造について説明する。音の3要素は,音の強さ(音圧)・音の高さ(周波数)・音色である。例えば,同じオクターブのラをトランペットとフルートで奏でた場合,人間は楽器の違いを認識できる。これは音の3要素のうち音色の違いを聴き分けているためである。注意を促す4種類の音に,この特性を活用することで,区別しやすい音創りができると考えた。 音色の構成要素を分解すると,スペクトル要素では基本周波数と倍音構造,時間要素では音の立ち上がり特性・持続性・減衰特性があり,このうち,音色への寄与度が高いのは倍音構造である。倍音構造の特性は,Fig. 以上)と各倍音の音圧バランスで決まる。 従来車のブザー音は,ブザーの構造上倍音がほとんど出ない周波数特性(単一周波数音)で,倍音構造は制御できていない要素である。ブザー音のような単一周波数は100を超える状況となり,机上での比較評価では緊急性Fig. 2に示す重要度3段階と対処への猶予4段階で定義し,Fig. 2 Definition of Sound Classification 音の基本周波数のみ制御した音よりも,倍音構造に違いをもたせた複合音の方が,緊急性の表現幅も広くなることが判っている(4)。 次に,緊急性の高低を分かりやすく表現する制御因子であるスペクトル重心について説明する。周波数の高低と人間が感じる緊急性の高低は,ほぼ比例関係にあることが従来からの検証で判っている。この特性を活用し,重要度3段階は,Fig. 4に示すスペクトル重心の要件を適用した複合音を製作した。最も緊急性が高い音のスペクトル重心を2kHzとしたのは人間の周波数対音圧感度を示した等ラウドネスレベル曲線(5)から音圧感度が最も高い周波数帯域であること,加齢により聞こえにくくなる高周波帯域は除くこと,走行騒音にマスキングされ難い帯域であることが理由である。緊急性が中レベルのスペクトル重心は,聴覚の臨界帯域幅(5)の特性から2kHzに対して容易に周波数の違いを区別できる1kHz,緊急性が低レベルのスペクトル重心も同様の考えで500Hzとした。スペクトル重心の要件に幅をもたせているが,これも同様の考えで設定している。Fig. 4の要件は,広帯域の発音体が必要なことを意味しており,従来のブザーでは実現できず,新型MAZDA3ではスピーカーを採用した。 正化と,倍音構造とスペクトル重心に違いをもたせた音創りにより,音の違いを区別しやすく,緊急性の高低が分かりやすい音特性を実現した。 このシーンでの聴覚刺激の機能は「Ⅳ. 受付状況が不確かなケースでサポートする」である。この機能を有効に果マツダ技報 No.36(2019)

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