マツダ技報 2019 No.36
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Fig. 1 Schematic Representation of SAXS Measurement -278- 2.2 小角X線散乱分析技術について 小角X線散乱(SAXS : Small Angle X-ray Scattering) Fig. 3に小角X線散乱分析で取得した未処理の中空ナノ ⁄ 果(1) 2. 自動車用樹脂複合材料のフィラー分散 状態分析 a) Unprocessed, b) Stirring Processed 𝑞=(4π𝜆⁄)sin𝜃 (2) 型放射光施設では,例えば実験室系X線回折装置に用いられるようなX線源と比較して桁違い(約108倍)の輝度となる。この高輝度なX線を用いることで,鮮明なシグナル取得,異なる分析手法の同時実施,反応のリアルタイム検出(優れた時間分解能)などの実験室系分析では得られない材料の情報を取得できる。本報告では,革新的材料の創出のため,粒子の分散,化学反応,積層・界面構造について放射光分析を行い,材料MBRに求められるデータ解析までを行った事例,得られた知見及び活用展開について報告する。 子)や布状に織った長繊維を樹脂中に存在させることで樹脂のみでは実現できない剛性や耐衝撃性を備え,複数の機能を高いレベルで保有する材料として,自動車での適用が拡大している。この複合効果は,添加されるフィラーの特性,さらにフィラーと樹脂の相互作用により発現するため,フィラーの効果を最大化するためには,その分散状態(樹脂内でのばらけ具合)が重要なコントロール因子となる。また,樹脂複合材料に添加されるフィラーは,マイクロメートルサイズからナノメートルサイズに微細化し,複数のフィラーを組み合わせることが行われているが,単純にフィラーサイズを微細化して混合しても樹脂中で塊になりやすく,狙った分散状態とならずに部材特性の向上が得られない。フィラーの分散状態をとらえてコントロール可能とするため,小角X線散乱法を用い,ナノフィラー分散樹脂複合材料を分析解析した結果を紹介する。 分析は,試料に単色X線(波長:)を照射して試料内に存在する物質の密度差から生じるX線の散乱を測定する方法である。散乱角度と試料中の構造サイズLの関係は式(1)で表され,散乱角度が小さい領域ほどサイズの大きな構造からのシグナルを取得できる。 𝐿= 𝜆(2sin𝜃)小角X線散乱分析の概要をFig. 1に模式的に示す。 2.1 自動車用樹脂複合材料について 樹脂をベースとする複合材料は,フィラー(短繊維,粒取得した2次元パターンは円周方向に積分して散乱ベクトルqと散乱強度Iのプロファイルとする。散乱角度と散乱ベクトルqは式(2)で表現される。 中空ナノフィラー分散複合材料は,中空ナノフィラー(材質:シリカ,メーカーカタログ平均径:100nm)と樹脂(有機溶媒を含む)を撹拌・混合した後,金属板上に成膜,熱処理を行うことで作製した。また比較試料として,有機溶媒中で撹拌処理のみ行った中空ナノフィラーを作製した。小角X線散乱分析実験は公益財団法人高輝度光科学研究センター・大型放射光施設SPring-8の兵庫県ビームラインBL08B2で,中空ナノフィラーの形状観察は透過電子顕微鏡(JEM-3000F,JEOL,ひろしま産学共同研究拠点)で実施した。Fig. 2に,透過電子顕微鏡を示す。中空ナノフィラーの外形は球形ではなく,角張っており立方体に近い形状であることを確認した。また,複数視野の観察から,中空ナノフィラーは直径相当で50~と分かった。未処理と有機溶媒中で撹拌を行った中空ナノフィラーを比較すると,撹拌試料では粒子の割れが散見された。中空ナノフィラーは樹脂との撹拌・混合時にも割れを生じ,破片が複合材料中に存在すると推察される。 フィラー粉末及びフィラー分散複合材料の散乱曲線を示す。散乱曲線を比較すると,ほぼ同様のq値で上に凸の形状が認められ,複合材料でも中空ナノフィラーの特徴が強く現れていると分かる。 取得した散乱曲線から粒子の分散状態及び形状変化を評価するため,Fig. 4に示すような円板で中空ナノフィラーの特徴(立方体に近い形状)を表現することを検討し,散乱ベクトルq=0.05~2.5の範囲について円板モデルを用いてフィッティング解析を行った。フィッティング曲線を2.3 中空ナノフィラー分散複合材料の分散状態分析結(TEM:Transmission Electron Microscope)の観察結果150nmと幅をもつこと,粒子の壁面厚さは約10nmであるFig. 2 TEM Image of Hollow Particle Powders, マツダ技報 (1) No.36(2019)

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