マツダ技報 2019 No.36
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(HiSOR)のビームラインBL11で実施した。 -280- (XAFS : X-ray Absorption Fine Structure)と呼ばれる内 3.3 ゴム材料中硫黄架橋の化学状態分析結果 Table 2に示す原料を混練し,圧縮条件下で150℃加熱す 合成イソプレンゴム 酸化亜鉛 ステアリン酸 硫黄 加硫促進剤 分析は,X線のエネルギーを連続的に変化させながら試料に照射して試料から発生する蛍光X線,または,試料を透過したX線量を計測することで,X線吸収微細構造殻電子の励起を反映したスペクトルが得られる。本評価で用いた蛍光法XAFSの概要をFig. 6に示す。 ることで,硫黄架橋したシート状ゴム試料を作製した。シート状ゴム試料は,大気雰囲気下100℃に保持した恒温槽で最大80時間加熱した後,XAFS分析実験に用いた。ポリマー 架橋形成材 取得した硫黄K吸収端のXAFSスペクトルをFig. 7に示す。全ての試料で2472eV付近にピークが認められ,加熱時間が増加すると2482eV付近に新たなピークが現れた。 まず,2472eV付近のピークは硫黄と硫黄,もしくは,硫黄と炭素の結合に由来し,硫黄原子が連なって結合している数が多いほど低エネルギー側に現れる。取得したスペクトルを比較すると,加熱時間の増加に伴いこのピークは高エネルギー側へシフトしていることから,加熱によって硫黄と硫黄の結合数が多い部分の割合が減少していると分かる。 次に,2482eV付近に現れるピークは硫黄と酸素の結合に由来し,加熱時間の増加に伴いこのピーク強度が増加していることから,硫黄と酸素の反応が進行していると分か3.2 X線吸収分光分析技術について X線吸収分光(XAS : X-ray Absorption Spectroscopy)Fig. 6 Schematic Representation of XAFS Measurement (in Fluorescence Mode) XAFS分析実験は,広島大学放射光科学研究センターTable 2 Raw Materials of Test Rubber る。この変化を定量的に評価するため,試料内で形成されていると考えられる硫黄の各結合状態に対応するピークをガウス関数で設定し,硫黄(または炭素)と結合した硫黄,酸素と結合した硫黄に対応した2つの吸収端をアークタンジェント関数で設定してピーク分離の解析を行い,プロファイルの全面積に対する2482eV付近のピーク面積の割合を求めた。 解析結果をFig. 8に示す。加熱時間の増加に伴い,酸素と結合した硫黄の割合が比例的に増加しており,ゴム表面から加熱試験時に雰囲気中の酸素を取り込みながら,硫黄と酸素の反応が継続的に進行したと考える。本手法により,ゴムに含まれる硫黄の中で,酸素と結合して結合に寄与しない硫黄の割合を定量化可能となり,機械的特性との相関評価,ゴム特性変化のメカニズム解明について効率的に仮説と検証の研究開発サイクルを回すことができる。 マツダ技報 Fig. 7 XAFS Spectra of Heat Treated Rubber Samples Fig. 8 Area Ratio of Reacted Sulfur with Oxygen No.36(2019)

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