マツダ技報 2019 No.36
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-45- 3. 燃焼予測技術の開発 Controlled Compression Ignition(CCI)がブレークスルーFig. 1 Roadmap to the Ideal Combustion 2.2 ブレークスルー 全運転範囲で圧縮着火が実現できない場合,SIと圧縮着Controlled Compression Ignition(以下,SPCCI)で,実SPCCIでは,圧縮比を圧縮着火開始直前まで高め,点火Fig. 2 SPCCI Combustion り替えながら運転する。まずSPCCIでは,燃料を希薄にした条件,排気再循環ガスで希釈した条件で圧縮着火を行う。この圧縮着火を誘因する膨張火炎球は,スパークプラグの点火で生成される。その生成を安定化するには,スパークプラグ近傍において,燃料濃度を高めて着火しやすい状態,流動・乱流強度を強めて火炎伝ぱしやすい状態を形成する必要がある。加えて,未燃混合気を圧縮着火させるために,その化学反応の進行度も制御する必要がある。次にSIでは,タンブル流で生成する乱流で急速燃焼させる一方,高圧縮比化でノッキングが重大な問題となる。その抑制のためには,伝ぱ火炎の形状,未燃混合気の自着火,自着火後の圧力振動形成について理解し,適切な対策を創出する必要がある。 いずれの燃焼も,未燃混合気の自着火を燃焼室内の局所的状態で完全に制御しなければならない。この局所的状態は,吸気流動制御の多様化・燃料噴射制御の高度化で形成する。吸気流動は,燃焼室内を縦旋回するタンブル流だけでなく横旋回するスワール流も用い,燃焼室ボア径方向の状態制御に利用する。燃料噴射は,高圧噴射・圧縮行程噴射・多段噴射を用い,燃料配置制御に利用する。そのため,これまで独自に開発してきた流動・噴霧予測技術(2)(3)をあらゆる条件にも対応できるように高精度化する必要がある。加えて,未燃混合気の自着火を予測するために,新たに素反応を考慮した燃焼予測技術を開発する必要がある。これ開発を,汎用熱流体解析プログラムCONVERGEを用いて実施した。 予測するために開発してきた(2)が,SPCCIで利用するスワール流は,高速で歳差運動を伴う複雑な流動であるため,予測が困難になる(Fig. 4(c),4(d))。そこで,燃焼室内流動を構成する噴流・衝突流・旋回流など,あらゆる基礎流動に対応できる予測技術を構築するために,現象を単純化した基礎実験を通じて,現象解明・予測技術開発に取り組んだ。ここでは,衝突流に対する取り組みを示す。 衝突流は,1辺30mmの矩形管に最大流量15m3/minの遠心型高圧送風機で常温空気を送り込み,噴流部から50mm離れた平板に噴流を衝突させて形成する。噴流部に設けた可動式オリフィス板で,噴流速度・衝突角を変えることができる。噴流部高さ10mm,20mm,30mm,流入速度3.1 開発の方向性 前述したように,SKYACTIV-Xでは,SPCCIとSIを切らSKYACTIV-Xに適用する流動・噴霧・燃焼予測技術の3.2 流動予測技術 これまでの流動予測技術は,SIで利用するタンブル流を10m/s,20m/s,各噴流部高さでの最大流速(25m/s-100m/s)それぞれについて,Particle Image Velocimetryマツダ技報 No.36(2019) 気・排気再循環ガスの比率を高めるリーンバーンが挙げられるが,スパークプラグによる火花点火(Spark Ignition,以下SI)では,火炎が伝ぱしにくくなり,失火する確率が高くなる。そこで,高圧縮比化によって燃焼室内を高圧・高温にして,ディーゼルエンジンのように圧縮着火させるリーン圧縮着火が有効である。リーン圧縮着火の研究開発を進めると,高温時には急峻な燃焼となり燃焼音が増大すること,また低温時には緩慢な燃焼となり燃焼変動が増幅することから,着火時の混合気温度を3℃幅で制御しなければならないことが分かった。そのため,圧縮着火は限られた運転範囲でしか完全に制御することができず,SIとの切り替えが避けられない。熱効率向上には,圧縮着火の運転範囲を拡大しつつ,SIとの切り替えを完全に制御できるの鍵になる。 火の切り替えが必須であることから,スパークプラグをもつ構造は避けられない。そこで,スパークプラグによる点火を圧縮着火の制御技術として活用する新燃焼SPark 用運転範囲では一部の冷間時を除くほぼ全てで圧縮着火を実現する。 による膨張火炎球でその外側に存在する未燃混合気をもう一押しする(Fig. 2)。膨張火炎球の要求されるタイミング・大きさは運転条件によって異なるが,それは点火タイミングで制御できる。この膨張火炎球が未燃混合気を追加圧縮することで,圧縮着火に必要な圧力・温度を加えることができる。

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