-60- (MFB50, Mass Fraction Burned 50%)までの熱発生をグがFig. 3である。左図のように筒内圧力や自着火時期そのもFig. 3 Autoignition Model for SPCCI Crank Angle Autoignition Crank Angle 着火に適した環境下において用いるA/FリーンSPCCI燃焼と,負荷全域において幅広い環境条件で利用できる,理論空燃比のG/FリーンSPCCI燃焼とがある。どちらの場合も基本的な制御の構造は同じである。 本節では,SPCCIの名前の由来でもある点火時期を手段とする自着火制御について説明する。 筒内の温度や燃料量など燃焼前のガスの状態が与えられると,点火時期に応じて,自着火燃焼の開始位置(自着火時期)及び燃焼位相が決まってくる。もし点火とそれによる自着火時期が早すぎれば(1)急速な自着火燃焼による圧力上昇で燃焼騒音などの問題を生じ,遅すぎれば(2)自着火が不安定となりトルク変動や排出ガスの悪化の問題を生じる。また,(1)と(2)の間でエンジンの効率が最良となる燃焼位相が存在する(3)。 生率を例示するとFig. 2の上段のようになる。燃焼重心レーハッチング,自着火時期を菱形のマーカーで示した。下段には横軸をMFB50としたトルク及び(1), (2)の限界との関係例を示した。 自着火時期を(1),(2)とならない範囲内に維持しつつ,エンジン効率を決めるMFB50を可能な限り(3)の最適点に近づけるため,推定した筒内状態から燃焼モデル,自着火モデルによりそれらを予測して点火時期を決定している。自着火時期,燃焼重心等については後述する。 るかは,点火時期が同じでも,点火前の筒内ガスの温度やという事実を考慮することである。 したがって,まず,点火前の筒内ガス状態を精度よく制御,推定するための吸排気制御(4章),精度よく燃料を噴射する燃料制御(5章)に改善が必要であった。 更に,吸排気制御などを改善した場合でも,従来ガソリンエンジンから採用しているような吸気温度センサーなどには精度の限界があるため,これらの情報で筒内を推定するモデルを使うだけでは,十分な精度を達成できない。SPCCIの燃焼形態としては2つあり,低・中負荷かつ自Fig. 2 Heat Release Rate (HRR) and Torque 同一負荷で点火時期を変化させたときの燃焼による熱発SPCCIの制御でポイントとなるのは,自着火がいつ起きEGR率,燃料分布などの状態によって大きく変わってくるSKYACTIV-Xでは,全気筒,全サイクル,筒内圧力セ(1) 自着火モデル SPCCIは点火時期によって制御するのではあるが,点火SPCCIのメカニズムに基づいた分割でもあるが,制御上マツダ技報 そこで,自着火時期を含めた自着火燃焼の状態を見てモデルを補正するフィードバックが重要になる。SKYACTIV-Xでは,直接筒内圧を計測する燃焼検出システム(7章)を開発してこれを実現した。 なお,従来ガソリンエンジンでは,開発時のテスト結果に基づき各種温度センサーなどの値を入力とするエンジントルクモデルを作り,点火時期を決めていた。ノックセンサーでエンジンブロックの振動を見るなど,燃焼の結果に応じたフィードバックは行っていたが,エンジンの工業製品としての個体差や環境条件の差を考慮・吸収して熱効率最大の状態で運転するという理想には不十分な点もあった。 ンサーにより実際の燃焼状態を見てモデルを補正する制御を導入することで,理想状態に大きく近づいた。 前の筒内ガス状態と点火時期の両因子から自着火時期への対応関係を直接一つのモデル式として扱うのではなく,点火からの火炎伝ぱ速度を表現するSI(Spark Ignition)燃焼モデルと,それによる未燃部圧力上昇及び点火前の筒内ガス状態を入力として自着火特性を表現する自着火モデルの二つに分割してモデル式を構成した。 の分割の必要性は,自着火時期そのものが毎サイクル変動してしまうことにある。 例えば,市場ガソリンの化学組成は販売場所・季節などでさまざまであり,自着火特性に影響を与えるため,自着火モデルのパラメータに補正を加える必要がある。 しかし,SI燃焼の速度は,例えばディーゼルエンジンの燃焼とは異なり,条件によるが,毎サイクル大きく変動する。その結果として,SPCCIの自着火時期は変動する。 そこでモデルの補正は,各サイクルの燃焼後に,筒内圧力データから,自着火時期に加えて火炎伝ぱによるアシスト量を把握して,火炎伝ぱの変動を差し引いて行っている。 火炎伝ぱの変動が大きい状態で自着火モデルを検証したののは大きく変化しているが,右図のように計測値とアシスト量を入力した毎サイクルのモデル予測値はよく一致しており,自着火モデルのパラメータを不要に変化させることはない。 No.36(2019)
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