マツダ技報 2019 No.36
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-86- 残響無響室での測定結果の一例をFig. 9に示す。この図型MAZDA3の開発では,従来から取り組んでいる「直通のFig. 8 Secondary Seal Layout (2)インナーパネルエリアの穴隙ゼロ化 Fig. 9 Reverberation Anechoic Chamber Fig. 10 Weak Point of Front Door 理想のシール状態を実現するには,シール部品側だけでなく,シールする相手側部品との関係が重要である。サイドドアにおいては,プライマリーシールとして,ドアウェザーストリップ,セカンダリーシールとして,シーミングウェルトを設定している。ウェザーストリップに関しては,先述のヒドゥンサッシュ構造化により,担う機能をプライマリーシールに特化したことで,サッシュ部分での断面切り替えを不要とし,一断面でドア全周をシールするようにした(Fig. 8)。 シーミングウェルトに関しては,先代アクセラは,ベルトラインから上側はサッシュ,下側はドアトリムとシールする構造としていたが,サッシュからドアトリムへシールを切り替える部位において,シーミングウェルト/ドアパネル/ドアトリム間に僅かな隙が生じ,音の侵入経路となっていた。新型MAZDA3では,ベルトラインの下側もインナーパネルに対しシールする構造へ変更し,シールコンディションが全域で変化しない理想的なシールとすることで,静粛性を向上させた。本構造の実現にあたっては,基本断面の変更だけに留まらず,ドアハーネスの配策経路もドア前側のフロントパネルを貫通する構造へ変更した。 物体の持つ遮音性能(透過損失)の優劣は物体の持つ質量に依存する,いわゆる質量則が知られているが,その透過損失に関して,「面積比で僅か 1%の穴や隙(以下,穴隙)を有しているだけで,本来有する透過損失を大きく損失する」ことを過去技報で報告している(2)。ここで述べている穴隙は,遮音の観点から,以下の2つに定義することができる。第一に,内外を隔てる物質的な壁が存在しない「直通の穴」,第二に,物質的な壁は形成しているものの,壁の中で単位面積当たりの密度(以下,面密度)が低くなっている箇所,「質量則の穴」である。見た目には音の通り道が無い状態であっても,質量則の穴があれば,そこから音が透過し,遮音機能は著しく低下し,本来壁の有する質量で得られるはずの透過損失が得られない状態となる。新穴」の潰し込みに加え,持っている機能を無駄なく使いきるために,「質量則の穴」に着目した。また,開発に先駆け,ドアの遮音実力と弱点を明確にするため,先代アクセラ同様構造(以下,先代構造)のドアを用い,残響無響室にて遮音量の計測および音の弱点の可視化を行った(Fig. 9)。 は赤色や黄色の部位が音の透過量が大きい部位,また赤色は,より強い音圧レベルであることを示している。Fig. 10で示す通り,先代構造はドアスピーカー部とベルトライン周辺部からの透過量が大きい。新型MAZDA3では,この2か所を特に重要な部位と位置づけ,取り組んだ。 ①インナーパネルエリアの遮音性能向上 先代構造のドアにおいて,車外音の出口として最も寄与が高いのがスピーカー部である。スピーカーは直通する穴隙は皆無だが,壁となっているコーン紙は面密度が低く,「質量則の穴」となっていることが要因である。具体的な影響を机上計算にて算出した結果,インナーパネル部が本来質量則で得られる透過損失に対し,およそ半分をロスしていることが判った。新型MAZDA3の開発では,開発初期段階からNVH実研担当や,オーディオ開発担当らとの共創活動を行い,音響性能とドアの遮音性を解決するための根源的な問題がスピーカー配置であることを認識し,スピーカー搭載位置をドアからカウルサイドへ変更するという,大規模な構造変更を行い,問題を解決した。 また,ドアへ部品を組付する際に必要なサービスホールマツダ技報 No.36(2019)

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