(1)ドア開閉連動の空調制御技術 -87- 2.5 ドアガラスから室内へ透過する音の低減 壁を保持する剛性が低いと,壁自身が振動することで,3. 相反性能に対する取り組み Fig. 11 Window Regulator System 3.1 ドア閉まり性 新型MAZDA3では,車両全体で徹底した「穴隙ゼロ化」Fig. 13 Operation Explanation of Blower Unit. Fig. 12 Mechanism Door Closing まりを妨げる因子が存在する。中でも最も影響するのが,車室内にある空気がばねとなって,閉まりを阻害する現象,いわゆるエアタイトである。 車両のリアバンパー裏には,エキストラクターグリルという空気を抜くための弁を設けており,ドア開閉の都度,車室内の空気を外へ逃がす働きをしている。新型MAZDA3の開発中には,徹底した穴隙ゼロ化により,遮音性向上を果たしたものの,その結果空気抜けが悪化し,エアタイトが増大する問題に直面した。従来の手法では,エアタイトを低減するには,空気抜け量を増加させる,すなわち,エキストラクターグリル開口面積の拡大もしくは弁を解放しやすくする対策を行っていた。しかし,エキストラクターグリルは車外音の進入口になっていることが明確になっており(3),走行時の静粛性が悪化するという背反が生じる。新型MAZDA3では,このような背反する因子の特性を変動させて折衷案を探るのでなく,相互干渉しない新たな制御因子を見出し,機能を両立する取り組みを行った。ドア閉まり性の事例においては,ドア閉めを行う際の時間軸に着目し,静粛性と背反しない制御因子をコントロールすることで,ドア閉まり性を向上させた。詳細を以下に示す。 ドア閉まり性能を向上させるため,ドアを閉める際に,ブロアユニットの通気経路を制御し,車室内の圧力上昇を抑える,マツダ初の空調制御技術を導入した。ドアラッチに内蔵したアジャースイッチによって,ドアが開いたことを検出すると,ブロアユニット内にある内外気切り替えシャッターを通気抵抗が最も少ない位置まで作動させ,室内の空気が抜けやすい状態にし,ドア閉めが完了すると,シャッターを元の位置に戻す。この技術により,ドア閉めに要するエネルギをおよそ10%低減した(Fig. 13)。 マツダ技報 No.36(2019) は作業性を犠牲にしない最小限の大きさとし,樹脂製カバーを設定することで,透過損失の穴が生じないよう配慮した。これら取り組みの結果,質量則理論値に対する透過損失のロスは先代アクセラに対し,50%低減した(いずれも机上計算値)。 ②ベルトライン周辺の遮音性能向上 残響無響室での計測結果の分析により,外で発生した音はベルトライン部ウェザーストリップインナーのリップを透過してくることを突き止めた。これはガラスへの接触面積が少なく,経路上の面密度が低いこと,またリップ形状の薄肉部がいわゆる「質量則の穴」となっていたことが原因であった。対策としてリップの面密度を改善した新しいリップ形状や断面形状を設定した。 音響放射によって音が伝達する現象が生じる。これと同様の現象が走行中の車両のドアガラスでも発生している。ドアガラスの振動抑制のため,ガラスを閉じきった状態で,高い保持剛性を得られるように,ベルトラインモールの反力特性やリップ形状の工夫を行った。また,ドアガラスの安定した昇降挙動を保つには,摺動抵抗の変化に対してもガラスの姿勢変化が発生しない,ロバストなシステムが必要である。新型MAZDA3では,ガラスの水平姿勢を安定して保つため,フロントドアにWガイドレール式のレギュレータシステムを開発・採用した(Fig. 11)。ちなみに,挟み込み検知もマツダ初となるセンサレス制御方式を開発・採用している。 に取り組んだが,そうすることで影響が無視できないのが,「ドア閉まり性」である。この節では,その取り組みを説明する。 ドアを閉める際のメカニズムをFig. 12に示す。アウトプットである「ドア閉まりの完了」は,「ドアラッチとストライカーが噛み合うこと」であるが,そこに至るまでに,シールの反発力・チェッカーやヒンジの摩擦など,ドア閉
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