マツダ技報 2021 No.38
102/197

(2)モデルの妥当性検証 モデルの妥当性検証のため,ステアリング操作に大きく影響すると考えられる左同名半盲(両眼の視野が左半分見えなくなる症状)を発症した患者の運転操作解析結果を説明する。計測環境は3.1節で述べたものと同じであり,被験者は20代~40代の健常者4名(Sub.1~4)と40代の左同名半盲患者1名(運転リハビリ開始直後)とした。本来は,個人ごとに通常状態での制御ゲインを学習した上でモデルによる操作推定を行うべきだが,疾患発症前の患者の運転特性を知ることはできない。そのため,今回は健常者の制御ゲインの平均値をモデルに適用して各被験者の操作を推定し,実操作との誤差を求めた(Fig. 8)。その結果,患者は健常者に比べて誤差分布が広く,機能低下状態では想定どおりドライバーの操作と構築したモデルに乖離が生じることを確認できた。―95―]-[ DLK]-[ ycneuqerF evitaeR]-[ ycneuqerF evitaeR]-[ ycneuqerF evitaeR]-[ ycneuqerF evitaeR]-[ ycneuqerF evitaeRll00ll00l0l]m morf tesff[ retneCenaLO xaM]dar[ egnA gnireetSFig. 8 Distribution of Steering Operation Estimation 4.2 ステアリング操作に基づく機能低下検知可能性 通常操作を規定したモデルとドライバーの実操作の乖離から視野障害による運転機能低下を検知できることを確認する。単に推定誤差の大きさやその分散を評価指標とすると,想定していない走行環境や一時的な脇見等で大きな誤差が発生した際に誤判定する可能性がある。そこで,モデルからの乖離度合いの数値手法として,確率分布の違いを指標化できるカルバックライブラー情報量(以下,KLD)を用いる。一定時間の誤差分布を確率分布としてとらえ,あらかじめ学習しておいた普段の誤差分布と比較し,誤差が拡大した場合に運転機能が低下したと判断する。なお,KLDは正の値のみをとるが,誤差の拡大のみをとらえるために誤差分布が学習データよりも縮小する場合は負の値として計算した。また,KLDを計算する際の比較対象には,健常者4名の誤差分布を平均したものを用いた。その結果,患者はKLDが健常者の18倍以上となり,通常運転からの逸脱による運転機能低下の検知可能性を確認できた(Fig. 9)。ErrorFig. 9 Evaluation Result of Estimation ErrorFig. 11 Maximum O■set in Straight Section4.3 実交通環境への適用可能性検討 従来の運転操作モデルに対し,環境・車両因子による運転特性変化を織り込んだ効果を確認するため,実車運転データへ検知ロジックを適用した。計測には市販車をFig. 10 Patient’s Steering OperationSub.1~4Patient4020Error [rad]Sub.34020Error [rad]Sub.14020Error [rad]Sub.440402020Error [rad]Error [rad]Sub.2Patient0.40.20.002450.30.20.10.00.1ActualEstimated0.0-0.1KLD ComparisonMax Offset10Time [s]15確認 患者のステアリング操作とモデルによる推定値をFig. 10に示す。モデルでは2秒時点でステアリングを右に切る(操舵角がマイナスになる)と推定されているが,患者は4秒時点でステアリングを大きく切っている。車線内での自車位置の知覚には周辺視で獲得した情報が使われるとの報告(12)より,視野にとらえた左右車線の距離バランスが重要だと考えられる。視野半減によって片方の車線をとらえられなくなったため,感度が大幅に低下したと推察される。また,直線区間での車線中央からのずれ量(Fig. 11)は健常者平均0.1mに対し,患者は0.28mであることから,患者は位置知覚感度が低下していることで車線中央からのずれ量の知覚が遅れ,車線逸脱を防ぐために大きな操舵をしたと解釈できる。Patient’s Steering Operation

元のページ  ../index.html#102

このブックを見る