(2)熱膨張曲りのモデル化 座屈変形を引き起こす応力はオイラーの式で求められるが,3.1節で述べた,射出工程での曲り抑制のための軸荷重による圧縮応力と,熱膨張により発生する圧縮応力の合算となる。熱膨張による圧縮応力を抑えるには,鋳抜きピンの温度が上がらないようにするか,熱膨張しない材質とするか,金型で吸収する構造が必要である。そこで,ロバスト性を確保するために熱膨張量を金型で吸収する方向で対策を考案する。 そこで,鋳抜きピンの温度推移を観察すると,初期温度から最高温度に達する時間は充填完了後約1secであり,その後緩やかに温度低下して次サイクル開始時には初期温度に戻っている。一方,金型全体は鋳造サイクルを重ねるにつれて徐々に温度上昇する(Fig. 10)ため,熱膨張してわずかに大きくなる。これも鋳抜きピンの見かけ上の熱膨張量に影響する。 以上より,鋳抜きピンの熱膨張による座屈変形を抑制するためには,式(d)より求まる熱膨張量を吸収できる金型構造が必要である。―114―−′T′−′′+ ase About 40 Incre After Several Shots °C : Temperature : Compressive Strain : Bending Strain ) 3.2 チル工程での熱膨張による曲り(1)熱膨張曲りメカニズムの推定 チル工程は溶湯充填から凝固までであり,充填前に金型を冷却する内冷水によって常温まで冷却された鋳抜きピンは溶湯熱の影響を受けて温度上昇する。このとき,金型によって両端が拘束されているため,これを起点に長さ方向に熱膨張し,突き当て面で大きな圧縮応力が発生する。この応力がチル工程中に鋳抜きピンの座屈応力に達することで座屈変形していると推測した。 この現象をとらえるため,鋳抜きピン内部に複数の熱電対を設置して温度を測定し,同時に前出の鋳抜きピン勘合部に設置したひずみゲージで圧縮ひずみを測定した。その結果,充填直後から鋳抜きピン温度が上昇し,同時に圧縮ひずみが発生した。その後,温度上昇が続くが,途中で圧縮ひずみの減少(青矢印)と曲げひずみの発生(赤矢印)が観察された(Fig. 9)。圧縮ひずみが曲げひずみに変換されており,鋳抜きピンがチル工程中に座屈変形を起こしたことが確認できた。Fig. 9 Temperature and Strain at Chill TimeFig. 10 Die Temperature Before and After Several Shots……(d)ここで,Δh:熱膨張量[mm],α:線膨張係数[1/℃],H0:元の長さ[mm],T:数サイクル後の最高温度[℃],T′:1サイクルの最高温度[℃],T″:初期温度[℃]4. 鋳抜きピン曲りを抑制する型構造Δh(HT(HTFig. 11 Butting Structure with SpringMoving DieAbout 40After Several Shots°CStationary DieIncreaseIncreasing Temperatureα0T)=α0Core Pin Increasing TemperatureSpring Slide Core 鋳抜きピン曲りを抑制するためには,➀溶湯衝突による曲りと,➁熱膨張による座屈を同時に抑制する必要がある。 ここで,金型設計における抑制の考え方は,➀に対しては,対面する鋳抜きピンを互いに強く押し付けることで溶湯衝突によるたわみ量を突合せ面に隙間ができないレベルに軽減する,➁に対しては,熱膨張量を吸収することで圧縮応力の発生を座屈応力以下に軽減する,となる。 前項で定式化したとおり,➀のたわみ量は軸荷重と溶湯衝突による「分布荷重」から,➁の圧縮応力は鋳抜きピンの後退量と「熱膨張量」から算出可能である。このうち,軸荷重と後退量は金型設計で設定する値なので,「分布荷重」と「熱膨張量」を求める必要がある。そこで,金型設計時にこれらを算出するために,鋳造シミュレーションを利用して,それぞれを溶湯流速と金型温度の解析値から求めた。 次に,この軸荷重と鋳抜きピンの後退量を制御する金型構造として,バネによる突き当て構造を考案した(Fig. 11)。型閉じ時に対面する鋳抜きピンは互いを押す関係にあり,この時,鋳抜きピン根本部に設置したバネの反発力により必要な軸荷重を発生するが,その状態から鋳抜きピンが熱膨張してもバネの収縮ストロークによりそれを吸収する仕組みである。
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