マツダ技報 2021 No.38
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―6―4. インテリアデザイン4.1 開放感に包まれて調律される空間 クルマに乗る行為は運転を楽しむ以外の価値もチームで議論している。その中で運転中に心訪れる調律が極めて重要ではないかという議論を行った。一人または大事な人と占有できる空間として,運転に集中できている時にふと自身を俯瞰している開放的瞬間等,A地点からB地点への移動は単に時間を費やしているように見えて,他では得難い極めて価値ある時間になり得ていることに注目した。この体験をクルマ好き以外の方にも伝わるよう最大化していこうという試みでインテリアのコンセプトとデザインを組み立てている(Fig. 9)。4.3 インテリアパーツデザイン 機能部品に最先端のデザインを印象付けるには,ハイテクな表現をするのが常套手段であるが,この点でもチームでのブレインストーミングと議論が繰り返された。本音で自分が求める新しさの深掘りである。その中で,実生活では購入意欲がわくポイントは,ハイテク3割,親しみやすさ7割のイメージのプロダクトであることが見えてきた。新しいことでのベネフィットやワクワク感があり,記憶の奥底にある安心感や親しみも必要という度合いである。この視点をベースに,メーター,シフト,シート等の空間に置かれるエレメントは個々の造形を研ぎ澄ますが,それらを必要以上にインテグレートせず,直感的に機能が想起できる愉しさや安心感でまとめ上げている。 例えば,シートは人が直接触れる部分をファブリックとしてその周辺を人工皮革のシェルで支えるイメージで構成しており,座り心地が一目で分かるデザインとしている。またリアシートは同じ素材構成イメージとしながら,フリースタイルドアによるサイドトリムもシートの一部として取り込み,サラウンドしたラウンジソファーをイメージしたシートとして,単なる座席ではなくオーナーの創造的なプライベート空間として活用するイメージも想定している。この発想には,初代FFファミリアやペルソナ,コスモ等のリア席空間をヒントとしている(Fig. 12)。Fig. 12 Interior and Seats Production ImageFig. 9 Embracing Interior Sparse4.2 心と科学をデザインでつなげる マツダには「人間中心」というモノづくりの基礎がある。足を延ばした先に自然にあるペダルレイアウト,骨盤を立てることにこだわったシート設計,視線移動の少ない機能表示等,人間本来の特性に目を向けた開発による,安心と安全があっての運転の楽しさは変わらずMX30にも展開されている。更にそこにドアを開けた瞬間から始まる心の視点をチームは加えることに挑戦した。デザイナーは直感的にターゲットカスタマーをイメージしながら,心が調律されるような空間のビジュアルを描き出していく。更にそれらを評価&ブラッシュアップしイメージを高め,空間の連続性,シンプルな造形エレメント,素材の心地よさのポイントを見出した。また,技術研究所が同じような視点で空間の連続性検証をしており,その知見も有効活用した。ポイントは左右の空間のつながりにより運転手と助手席の人との共感値が上がることがデータで示すことが出来るものであり,このフィードバックを受けデザインのクレーモデルを使い左右座席の連続感やシフトパネル下の開口等の空間のプロポーションを一気に固めていった。この際作業には紙や発泡材等を駆使し,現実空間で短期での確かな検証とした(Fig. 10,11)。Fig. 10 Experimental VerificationsFig. 11 Interior Floating Theme

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