マツダ技報 2021 No.38
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(1)ツール動作 メカニズム解明で抽出した匠技の特徴の1つに「ツール把持部変位」がある。そこで,Fig. 6に示す(i)ツール移動速度,(ii)ツール移動角,(iii)ツール動作角,(iv)ツール先端の母材に対する変位,を始めとするツール動作に着目した。特に,匠級技能者と初級技能者には,「ツール移動速度」や「ツール先端の母材に対する変位」に差があり,これらが溶接ビードの形状や重なり具合へ影響した結果,溶け込み不良などの溶接欠陥に差が出たと考えた。このように,メカニズム解明で抽出した特徴を基に,ツール動作における技能向上課題が明らかとなった。(2)作業安定性 作業安定性を向上させるための勘・コツは,筋骨格動作に潜むと考えた。匠級技能者と初級技能者の筋活動量の比較をFig. 7に示す。匠級技能者は初級技能者と比べて,体幹の筋活動量が大きく,ツール持ち手である右手の筋活動量は小さい,という特徴が見えた。また,Table 3に(1)ツール動作で着目した4項目について匠級技能者と初級技能者の標準偏差の比較を示す。Table 3に示すように匠級技能者はツール移動速度やツール先端の母材に対する変位の標準偏差が小さく,一定の速度と距離を保っていることが分かった。このことから,匠級技能者は体幹を効率よく使うことで身体をコントロールし,右手の筋力の負荷が小さくなる筋骨格動作により,作業安定性を維持していると考えた。また,筋骨格動作の違いは,モーションキャプチャーから得られる腕や足の位置などの作業姿勢に現れていることが判明した。よって,作業安定性を維持する筋骨格動作は,姿勢改善により訓練することとした。―130―5. 技能訓練の定量化Fig. 6 4 Items of Tool MovementFig. 7 Comparison of Amount of Muscle ActivityTable 3 Comparison of Standard Division of Tool Tool speed [mm/s]iiMove angle [deg]iiiTool angle [deg]ivTool displacement [mm]5.1 技能カルテの概要 技能メカニズムの解明から得た一連の情報を基に,技能者個人の技能カルテを作成した。技能カルテの例をFig. 8に示す。Fig. 8 Example of Skill Medical RecordMovementTool MovementTrunk Left leg Right leg Left arm Right arm 0 10 Direction of movement (ii)Move angle(i) Tool speed (A)View from above Tool (iii) Tool angle(iv) Tool displacement Base Hand (B)View from side Takumi Beginner 20 30 40 50 Unit:% <Measurement> 60 <Principal Component Score> <Posture> <Welding movement information> <Musculoskeletal exercise> iTakumiBeginner5.118.900.500.520.120.360.431.90 この技能カルテには,技能メカニズムの解明で得た重要管理項目を基に,技能者が理解し技能動作を改善しやすい情報を記載した。また,技能者と匠級技能者の値を並べることで技能を定量的に比較・評価でき,技能向上課題が一目で分かるようにした。この技能カルテを訓練の前後に作成することで,技能者及び指導者が技能を定量的に把握でき成長に向けた的確な訓練を可能とした。更に,技能の変化を視覚的にとらえることができるため,技能者本人のモチベーション向上にもつながる。5.2 実機及びバーチャル訓練 技能カルテを基に訓練を行った。技能者は,技能カルテで技能向上課題を把握した後,ツール動作や筋骨格情報が匠級技能者の値に近づくように訓練した。訓練は2種類を実施した。1つ目は,実機を使った訓練である。金型製作の現場と同様の機器を使い,肉盛り溶接を行う。実機訓練では溶接の実現象と技能動作の感覚をすり合わせながら技能を向上できる。2つ目は,バーチャル機器

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