マツダ技報 2021 No.38
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―7―5.1 素材でテーマをリード 今回コンセプト面からも注力したのがインテリア素材の革新である。クルマの内装は基本さまざまな表面加工された樹脂系で構成された空間に,ファブリック系や革,金属,時として木材があるというのが定石である。更に,プロセス上どうしても,パッケージ~形状~素材の順番に開発がスタートしフィックスしていく,この素材による体験やプロセスを大きく変えることを目指した。ターゲットカスタマーには環境対応や素材のもつキャラクターがデザインの一部として認識されることは確信していた。先行開発段階からスタートした素材開発は,心に優しい素材感があり環境対応の配慮も含めた素材の物語があるという視点で検討をしている。具体的には揺らぎを感じる表情や触感による自由さと,素材自体の物語も含めた今を生き抜く賢さのイメージが感じ取れることである。5.2 呼吸感素材&PETリサイクル繊維 ドアトリムにはPETからのリサイクル繊維によるフェルト状の表面を用いている。不均質で揺らぎを感じるこの質感を最も広い壁の基本質感とすることで,空間の基礎としての空気を含んだ温かみのイメージを実現している。テーマ開発時は和紙の採用も視野に入れ,石州和紙の工房で紙漉きの挑戦も行い,そこでの試作を理想の素材感のターゲットとして設定している。またPETのリサイクル繊維はデニム調の黒ファブリックにも質感と風合いを考慮し約20%の割合で採用した。これらにより,クルマへの内装材へのリサイクル材採用の可能性を示している。5.3 プレミアムヴィンテージレザレット 素材の価格によるヒエラルキーは現在の内装開発に付きまとっているが,それがカスタマー体験の価値のレベルと一致しているわけではない。また現在の技術レベル向上により,人工皮革の質感が飛躍的に向上,生産工程での有機溶剤を使用しない製品も提案されている。今回この人工皮革をブラウンのレザー部に採用している。プリント加工を採用し,質感をあえてムラ感による揺らぎを感じるヴィンテージ調がマスプロダクトレベルで採用できているのも,人工ならではの技術である。また触感に関しても本革と近いレベルを実現している(Fig. 13)。5.4 ヘリテージコルク センターコンソールとドアグリップに採用したコルク素材は, 一部社史を想起する関係者は居たものの,提案自体は若手カラーリストからコンセプトを想定した素材案として親しみやすさや風合いの視点から提案されたものであった。しかしコルクは現在雑貨的で身近すぎる素材であり,高額商品のクルマに使う発想にネガティブな印象をもつ関係者も多かったことも事実であり,開発は当初細々と進められた。 コルク製品の実績のあるメーカーとして,クルマ部品のノウハウがあり,既にマツダと取引があるメーカーの一つが岡山県の内山工業(株)様であった。現在その主力商品はシールガスケット等であり,クルマには欠かせないエンジン部品をマツダへも供給いただいている。また食品向けのコルク栓やステーショナリー等コルク製品も網羅的に扱われている。一見コルクと自動車部品は何の関連もないようだが,開発を通して自動車産業の歴史のつながりがあることを知った。シール材,更に断熱や衝撃材の原点がコルクであり,合成ゴムやスチロール樹脂が戦後に発達するまではその役割を担う素材はコルクであったという歴史がそこにあった。そしてマツダがコルク事業のバトンを渡したのも内山工業(株)様であった。コルクの歴史が示すように,素材自体は木材としてはエンジン部品に使われるほどのタフな素材である。クッション性も含め極めて機能的な素材である良さを生かし切るコンセプトが提案された。使用する部位はルールとしてトレイとグリップに限られている。しかしデコレーションパネルにしないというこだわりが,機能性能を付加する必要が出てくるため,開発のハードルを一段上げてしまうことになる。同時にインテリア部品は見栄え品質がシビアな部位でもあることは変わりない。両立を実現できたポイントとして,コルク表面強度を実現するための基材との同時貼合技術や食品向けコルク素材の脱臭加工等の内山工業(株)様の知見,次に天然素材の劣化対応を以前から本杢パネルを採用していたマツダ側の知見を生かし,幾つもの試行錯誤を経て製品化を実現している。そしてコルク製品は伐採ではなく樹皮の採取で確保する素材であり,成長過程でCO2を吸収し続け,MX30の部品を始めとしたコルクチップによる製品はワイン栓5. カラーデザインFig. 13 Sustainable Materials また新投入の部位へは,単なる演出ではなく前述の心とデザインを科学で検証する開発を展開し,ロアディスプレーの空調コントロールやインタラクション画面,新しいパターンのエレキシフト等は,実験/設計と機能性の造り込みとデザインの共創を行い,量産形状を実現している。

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