マツダ技報 2021 No.38
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―134―2.1 試験片の調製 塗装部試験片としては,非めっき鋼板(溶接の有無)にリン酸亜鉛化成処理とエポキシ系電着塗装(防錆塗膜)を施し,耐食性への影響が考えられる溶接酸化膜の有無,化成処理の条件,電着塗料の種類と塗装条件を変化させて試験片を作製した(Table1参照)。Table1 Specification of Test PiecesType of steelWeldingType of descalingZinc TypephosphateTimeTypeEcoatBakingThickness2.2 実腐食試験,及び耐食性の迅速評価方法(1)複合サイクル腐食試験(CCT) 塩水噴霧6時間(温度308K,湿度100%),乾燥3時間(温度323K,湿度30%),湿潤14時間(温度323K,湿度98%) ,送風1時間(温度296K,湿度50%)を1サイクルとした繰り返しモードで試験を実施した。(2)湿潤環境試験 電着塗装板に素地に達するスクラッチ傷を付け,スクラッチ傷部に模擬泥としてカオリン(Al4Si4O10(OH)8) とNa+,Ca2+,Cl-,SO42-イオンを含有する混合液(pH 7)を付着させ,湿潤環境(温度323K,湿度98%)で試験を実施した。(3)耐食性の迅速評価 塗装部の腐食は,腐食因子が防錆塗膜を透過して素地金属に到達することで開始する。その後,素地金属の溶出に伴い発生した電子を消費する電気化学反応で塗膜腐食は進展する。このことから塗装部の防錆機能は,➀腐食抑制期間(塗膜が腐食因子を遮断して錆が抑制される期間)と➁腐食進展速度(塗膜下で腐食反応が起きて錆が進展する速度)に分けて整理できると考えられる(Fig. 1参照)。この双方の機能を個別に定量する試験と評価方法について次に示す。この試験と評価には,弊社で開発した装置を使用した(Fig. 2参照)。Fig. 1 Functions of Anti-corrosion CoatingABEGFIJHMAG weldingFig. 2 Appearance of Evaluation Equipmenta. 腐食抑制期間の迅速評価 塗装面上に電解質溶液(5wt% 塩水)を保ちながら,塗装金属材の鋼板と塗膜表面との間に時間に対して徐々に増大する電圧を印加して(1V/s),水とイオン物質を強制的に塗膜に透過させ,通電するときの電圧値(以降,絶縁電圧もしくは電圧値と記載)に基づいて耐食性を評価した(Fig. 3参照)。この電圧値と従来の実腐食試験で塗装金属材に錆が出始めるまでの期間(腐食抑制期間)との関係をあらかじめ求めておくことで,塗装金属材の絶120s2. 実験方法N/AN/AN/ACD10-120s413K×900s-423K×1,200s2-10μm423K×1,200s30μmである。自動車の防錆品質は,お客様の安全・安心に直結する極めて重要な品質である。この自動車の腐食対策を高精度,高効率に実現する技術は,品質向上に必須で商品価値にも直結する。例えば,今後急速に進むと想定される電動化やそれに伴う軽量化対応で新規部品や材料の防錆品質を迅速に造り込む上でも不可欠である。従来の防錆技術開発では,市場の代表的な腐食環境に基づき,腐食を促進することで,市場15年相当のダメージを2~4ヶ月程度(業界標準)で与え,腐食(錆)の程度を性能の判断指標としてきた。リン酸亜鉛化成処理とエポキシ系電着塗装から成る塗装部の防錆性能は,材料,工法,生産条件など影響する因子が多岐にわたり複雑である。従来,これら複雑な影響因子の制御を実腐食試験に基づき行っていたため,防錆品質の造り込みには数年を要し,評価も最悪条件の代表的な組み合わせに限定された。車両の構造設計に防錆仕様を反映して高い防錆品質を有する車両を高効率に実現するためには,塗装部の耐食性を数日以内に定量できる技術が理想である。弊社では,この技術開発において,防錆塗膜の性能発現メカニズムに基づいたモデルベース研究開発手法を活用し,塗装部の耐食性を電気化学的に迅速に定量評価する技術を実用化した。本報では,この耐食性の迅速評価技術とその効果をさまざまな塗装試験片を用いて複数の腐食評価法を比較検討することで,従来法との相関性や腐食促進性の違いを考察するとともに,新規防錆技術の開発へ適用した場合についても言及する。

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