マツダ技報 2021 No.38
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―135―Fig. 3 Evaluation Method of Corrosion Incubationb. 腐食進展速度の迅速評価 塗装部にポンチもしくは小型カッター(エヌティー(株)製,小型A刃(BA160),刃幅0.38mm)を用いて素地に達する人工傷を付与した。これにより,塗膜による腐食抑制期間をあらかじめ除いて,腐食進展速度を評価した。ポンチによる点傷からの膨れ径A1 (m),または,カッター刃で付けた線傷からの最大膨れ幅A2 (m) を電流印加時間t (s) で除したものを腐食進展速度(m/s)と定義した。塗装面上に電解質として,カオリンとNa+,Ca2+,Cl-,SO42-イオンを含有する混合液(pH 7)を保持した。電解質液の温度は試験片をヒーターにより加熱して338~348Kに制御した。また,塗膜に十分に電解質液を浸透させるための時間として試験片をヒーターで加熱して1,800s保持した。その後,アノードとカソード間に1mAの定電流を1,800~3,600s印加し,カソード側に発生した塗膜膨れから,腐食進展速度を試算した(Fig. 4参照)。Fig. 4 Evaluation Method of Corrosion Progression3.1 腐食抑制期間の迅速評価 塗装部の防錆機能は,➀腐食抑制期間と➁腐食進展速度に分けて整理できることは前述した。ここでは,➀腐食抑制期間の影響因子について検討した。塗装部の腐食抑制モデルを示す(Fig. 5参照)。自動車用の電着塗料は,3. 実験結果と考察Fig. 6 Relationship between Insulation Voltage and Baking Conditions, Film Thickness, and Appearance of Test Piece after 40 Cycles in CCT Test, Steel: A, Zinc Phosphate: E (Time: 120s), Ecoat: G (Baking: 413K×900s-413K×1,200s, Thickness: 5-10μm).Fig. 5 Corrosion Incubation Model縁電圧から腐食抑制期間を求めることができる(2)。複合サイクル腐食試験では,サイクル数(X軸)と腐食発生面積率(Y軸)との関係において,腐食発生率1~5%の範囲における近似式とX軸の交点を腐食抑制期間と定義した。主にエポキシ樹脂により構成される。膜厚が厚く,膜質がよいものほど,腐食因子である水やイオン物質の遮断性が高く,錆の発生が遅いと考えられる。膜質とは,ガスピンホールなどの塗膜欠陥がなく,樹脂同士が密に架橋を形成したものがよいと考えられる。一般に,樹脂の架橋(硬化反応)の程度を示す指標として,ゲル分率(%)が用いられるが,このゲル分率は,加熱によって樹脂の架橋(硬化)反応を進行させる自動車用の電着塗料において,樹脂の熱劣化が起こらない加熱温度範囲(413~463K程度)であれば,加熱温度が高く,加熱時間が長いほど高くなる(Fig. 5参照)。本検討では,膜厚や膜質(樹脂の硬化度)を塗装条件によって,それぞれ2~10μm,84.8~93.0%に制御した。膜厚と絶縁電圧,加熱条件と絶縁電圧の関係を示した(Fig. 6参照)。本検討の範囲内では同一膜厚(10μm)において,加熱温度が高く,加熱時間が長いほど絶縁電圧は高くなった。また,加熱条件が同一(413K×1,200s)の場合には,膜厚が厚いほど絶縁電圧は高くなった。複合サイクル腐食試験で40日経過後の試験片外観を合わせて示した。絶縁電圧が高い試験片ほど腐食が抑制されていることがわかる。これは,加熱温度が高く,時間が長くなったことで,樹脂の架橋が進み水やイオン物質の遮断性が向上したこと,膜厚の増加でも同様に遮断性が向上したことによると考えられ,想定とおりの結果が得られた。

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