マツダ技報 2021 No.38
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―136―Fig. 7 Relationship between Cycle Number of Rust Formation at CCT Test and Insulation Voltage Evaluated by Newly Developed Method, Steel: A, Zinc Phosphate: E (Time: 120s), Ecoat: G.3.2 腐食進展速度の迅速評価 腐食進展モデルを示す(Fig. 8参照)。腐食因子が素地金属に到達した後に素地金属が溶出(アノード反応)に伴い発生した電子を消費する電気化学反応(カソード反応)で塗膜下の腐食は進展する。【図中(A)】 素地金属の溶出し易さは主に鋼板種に依存し,不働態被膜の形成や腐食生成物の形成等がその影響因子となる。【図中(B)】電着塗膜の膜質は塗料の種類や塗装条件に依存し,塗膜の保水量に影響を与える。保水しやすいものほど塗膜下に水やイオン物質,溶存酸素が供給され易いと考えられる。【図中(C)】電子を消費するカソード反応の起こり易さは,反応サイトの量(化成被覆率)などに依存し,素地金属の露出が多いほど腐食電流の遮断性能は劣る。このカソード反応は,塗膜下のアルカリ化を引き起こす。化成結晶の耐アルカリ性は,結晶構造などに依存することが報告されている(3-5)。化成結晶は,主にHopite(Zn3(PO4)2・4H2O)とPhosphophyllite (Zn2Fe(PO4)2・4H2O)があり,後者の方が耐アルカリ性に優れる。また,電着塗膜と化成被膜とのアンカー効果による付着力Fig. 9 Di■erences in Corrosion Progression Evaluated by Newly Developed Method Due to Changes in Coating Specifications of Zinc Phosphate, Steel: A, Zinc Phosphate: E (Time: 10 and 90s), Ecoat: G (Baking: 413K×1,200s, Thickness: 10μm).Fig. 8 Corrosion Progression Model 次に,実腐食試験における発錆サイクル数と絶縁電圧の関係を示す(Fig. 7参照)。今回の試験片の作製条件において,膜厚が厚く,樹脂の熱劣化が起こらない加熱温度範囲であれば,加熱温度が高く,加熱時間が長い試験片ほど発錆までの期間は遅くなった。塗膜の腐食因子遮断性を示す絶縁電圧は,錆の発生が遅い試験片で高い傾向を示した。この絶縁電圧と実腐食試験における錆発生までの期間には高い相間(R2=0.92)が認められた。このことは,本評価法で電着塗装の膜厚と膜質が影響する腐食抑制期間を精度良く測定できたことを示している。本評価法では1測定当たり,例えば絶縁電圧300V(本研究で実施した複合サイクル腐食試験で3ヶ月経過後に発錆する電着塗装)のものであれば,約5分で電着塗装部の腐食抑制期間を評価することができる。以上のことから,本評価法により腐食抑制期間を定量的に短時間で評価できることが分かった。は,化成結晶の形状に依存し,塗膜との接触面積が大きいと高いと考えられる。このように腐食進展速度は鋼板と化成,電着の種類や塗装条件に依存し,それらに影響を及ぼす因子は多岐に亘る。 実験的にカソード反応サイトの量(化成被覆率)と結晶形状を処理条件で変化させた試験片を用いて,腐食進展速度を定量評価した(Fig. 9参照)。腐食環境に晒して電流を印加した時間に対して,発生した塗膜膨れの径が大きくなる傾向が認められ,想定とおり化成被覆率が低く,結晶の形状的に塗膜との接触面積が小さい付着力の低いと考えられる試験片でグラフの傾きが大きく,腐食進展速度が速いことが認められた。 続いて,電着膜質の腐食進展速度に対する影響を明確にするために,化成処理の条件に加えて,電着の塗装条件を変化させた試験片を用いて同様の評価を実施した。試験片の調整条件は,リン酸亜鉛化成処理の時間を10s~120s,電着塗料の加熱条件を413K×900s~423K×1,200sとした。また,実腐食試験(湿潤環境試験)に基づき評価した腐食進展速度と本技術で評価した腐食速度との関係を比較した(Fig. 10参照)。電着塗装条件について,今回の試験片の作製条件において,樹脂の熱劣化が起こらない加熱温度範囲であれば,加熱温度が高く,加熱時間が長い試験片ほど腐食進展速度が遅い傾向が認

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