マツダ技報 2021 No.38
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―140―σσσΘττσFig. 1 Vision of Model Based Design and Research 車体の衝突現象の多くは,薄板中空フレームの曲げ変形であり,先行論文(3)(4)で示したとおり,座屈現象によりその強度特性が決まっていることが多い。そのため部材機能に対しては,材料の圧縮特性が大きく影響を及ぼす。今回対象とする連続繊維強化型CFRPは,Fig. 2に示すように引張強度よりも圧縮強度が低く,また脆性材料であるため,圧縮強度が車両機能に大きく寄与することが推察できる。 そのため,本研究では複合材料を用いた車体において,重要な機械特性である繊維方向圧縮強度の予測モデルの構築に向け,圧縮強度を決める微視的な現象の可視化に取り組んだ。1. はじめに2. 可視化実験Key words:Materials, Non-ferrous material, Test/Evaluation, Synchrotron Xray, CompositeFig. 2 Stress State under a Bending Frame2.1 評価対象 連続繊維強化型のCFRPの圧縮強度は,Fig. 3に示すようなキンクと呼ばれる繊維の長手方向の局所座屈によって決まることが,上田らの報告(5)により知られている。先行研究では炭素繊維の体積含有量(以下,Vf)が40%前後のものが多いが,本稿では車両の構造部材を想定しているため,炭素繊維のVfが60%と高い点が異なる。また,先行研究は汎用的なX線CTを用いており,繊維一本一本の挙動までは明確にとらえられていないが, 樹脂の応力分布や界面の剥離状況までモデル化することを想定しているため,繊維一本一本まで明瞭にとらえることを目指す。Fig. 3 Microscopic Behavior that Determines 2.2 評価方法(1) 評価設備 現象を把握しモデル化するには,材料内部まで含めた観察が必要であり,FIBSEMやX線CTなどの方法が一般に利用される。しかし,FIBSEMは試料をイオンビームで削り内部断面を得る破壊分析であるため,原理的に負荷過程の挙動をとらえられない。また,一般的なX線CT装置では,炭素繊維と樹脂の密度差が小さくCT像の細部が不明瞭となる。これは,CT像の基となるX線透過像において,X線の波長が短く試料を良く透過するほど内部の密度差に起因する投影が薄くなる等,トレードオフ関係があることによる。そのため,一般的X線源の約10億倍輝度が高いSet target functionMBRMicro-scale(fiber/matrix)Function improvesMBDMacro-scale(Car/Component)Meso-scale(Material test)FiberResinKinkbandστCompression Strengthστ 低燃費のための車両軽量化と,人命保護のための衝突安全性能の向上を両立することは自動車開発における大きな課題であり,その解決には構造技術だけでなく材料技術の革新が有効な手段となる。材料技術の革新には,超ハイテン化やアルミの高強度化・高靭性化等があるが,特に軽量化に有望な材料として炭素繊維等を用いた複合材料がある。複合材料は母材と強化繊維の組み合わせだけでなく,繊維の含有率・配向・層構造といった材料構造に関する設計因子が多く,車両の要求機能に対して高度な制御が可能である。反面,その材料構造により複雑な挙動をとるため,最適解の探索には材料スケールの因子から車両スケールの因子までそれぞれを扱うことが可能なモデルと,それらを繋ぐフレームワークが必要となる。そのため,Fig. 1に示すようなMBD/MBR(1)(2)を構築し,車両機能からバックキャストした革新的な材料開発や,新材料の車体機能における価値を定量的に算出できるプロセスの構築を目指している。このプロセスを構築する上での大きな課題の一つは材料スケールの因子を取り扱うモデル化技術の確立であり,そのためには微視的な現象の可視化と評価技術が必要となる。 以上から,複合材料を用いるマルチマテリアル車体を想定した,衝突性能のMBD/MBR構築に向け,微視的な現象の可視化・評価技術を開発した事例を紹介する。

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