マツダ技報 2021 No.38
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Dnは噴孔直径,Cbはモデル定数である。しかし,式(1)を多様な液体種や雰囲気環境に適用するためには,液体種や雰囲気条件ごとにモデル定数Cbについて,都度キャリブレーション試験を実施する必要がある。そのため,ガソリンや軽油のみならず,多様なCN燃料を内燃機関へ適用することが想定される環境において,適切な筒内混合気制御を迅速に検討するためには,これまで以上に一般性を有する分裂長さモデル構築の必要性が増してくる。有次元の物理量を一般化する手法として,無次元数及びそれを利用したダイアグラムがしばしば用いられている。そこで本研究では,さまざまな雰囲気場における各種液体噴霧の分裂長さについて,無次元量を活用したその汎用モデルの構築を試みた。まず,噴霧可視化試験結果に基づき水及びガソリン模擬燃料(S5R(4))噴霧の分裂長さを分析した。そして,種々の噴孔諸元,噴射圧力,液体種,雰囲気環境における噴霧の分裂長さに関する既往研究結果を収集した。その上で,それらの結果を統一して整理可能な無次元量を,分裂に寄与する物性・物理過程の考察に基づき導出した。 Table 2は,試験を行った際の容器内雰囲気条件である。噴霧の分裂過程においては,噴射する雰囲気場の密度及び温度が大きな影響を及ぼす。そのため,高温・高圧となるエンジン燃焼室内での噴霧分裂挙動を模擬するために,Case 1,2それぞれの密度及び温度条件は,各々圧縮比20以上の自然吸気エンジンにおけるクランク角20 [deg. bTDC],5 [deg. bTDC]の筒内密度,温度を模擬するように設定した。 Table 3に,噴霧可視化試験を実施した噴射条件と雰囲気条件を示す。噴射期間は,インジェクター及び噴射圧ごとに,定常的に噴霧が形成される期間が観察できる時間幅に設定した。―157―2. 実験装置,実験条件及び解析手法2.1 実験装置,実験条件 定容容器内において,単噴孔及び多噴孔ホールインジェクターを用いて液体噴射を行い,容器内で形成される自由噴霧の発達過程を高速度カメラにより可視化した。なお噴射液体とその分裂・蒸発の進展に伴う噴霧混合気形成挙動をとらえるため,気相・液相両者の空間密度勾配と噴霧概形を時系列的かつ比較的簡便に観測可能なシュリーレン法を採用した。定容容器内に,Ar/N2/O2/C3H8予混合気をあらかじめ充填し,火炎伝ぱ燃焼させることで,容器内雰囲気をエンジン筒内環境相当の高温・高圧状態を実現した。なお上記予混合気の成分割合は,容器充填時にねらいの密度となるよう調整した。そして,充填予混合気の燃焼後に容器内部雰囲気がねらいの温度及び圧力条件に達した時刻に,液体噴射を行った。実験方法及び装置の詳細については,文献(1)を参照されたい。得られた噴霧可視化映像から各時刻における噴霧先端到Table 3 Summary of the Test ConditionsInj. A1302000.5Case 1Case 1Case 1, 2Case 1, 2Table 1 Specification of the Baseline InjectorsInjector typeHole numberHole diameter [mm]NomenclatureTable 2 Ambient Conditions of the ExperimentTemperature [K]component[mole fraction, %]Water (293 [K])Inj. BInj. C60130200200.5Test fluidInjectorInjection pressure(rail pressure) [MPa]Injectionpulse width [ms]Ambient conditionN2H2OSolenoid-Driven Injector0.08Inj. ADensity [kg/m3]Pressure [MPa]ArGasCO2S5R (293 [K])(gasoline surrogate fuel)Inj. C1002001002000.50.5Case 1, 219130.080.10Inj. BInj. CCase1Case29.4717.42.024.40910107073.272.09.413.19.98.57.56.4達距離を求め,その値に基づき各種液体噴霧の分裂長さを解析した。 Table 1に使用したインジェクター諸元を示す。供試インジェクターには,ソレノイド駆動式ホールインジェクターを用い,各々の噴孔仕様を改造した。

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